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The magic of Alex Elmsley vol.3

私が現在メインで使っているデックは、カルタムンディのコパッグ310です。腰が強く、滑らかで扱いやすいデックですが、やはり一長一短ありまして、このデックはダブルカードの扱いがとてもシビアです。USPCCのデックより、カードが少々厚いというのと無関係ではないのかも知れません。

しかし、メーカー直々に手頃な価格でギャフカードやトリックデック(スベンガリ、ストリッパー)を出してくれているのがとてもありがたく、デザインも気に入っていますので、当分はこのデックを使い続ける予定。

では今日のDVD紹介。イギリスの天才アレックス・エルムズレイの作品集3本目。今回も、独創的な工夫にあふれた作品ばかり。つまらない「最新」のDVDを見るくらいなら、こういうDVDを入手すれば、一生の宝になるでしょう(今ではこのDVDは動画でしか入手できないようですが)。では始めます。案内役は、今回もマイケル・アマーです。 

The magic of Alex Elmsley vol.3

1. Fan prediction
現象/演者は1枚のカードを予言として抜き出し、そのカードの名前を紙に書かせる。抜き出した予言のカードは、後ろ手にデックに戻す。相手に1枚のカードを選ばせるが、そのカードは予言と一致している。

ファンの性質を上手く使った、非常にクリーンに見える予言エフェクトです。解説を見て、上手い解決法に感心しました。ファンさえ綺麗に広げられれば、難易度もさほど高くないと思います。最初にデックを後ろに回すのだけはちょっと怪しいですので(笑)、そこは何か上手い理由付けを考えましょう。

エルムズレイは、1枚だけひっくり返ったカードの処理法も解説してくれています。もちろんその通りのやり方でやってもいいのですが、せっかく1枚ひっくり返ったカードがあるのですから、それを利用したトリックを続けるのがいいと思います。即興で演じられる予言トリックの傑作です。

2. The red and the blue
現象/相手は青いデックから、演者は赤いデックから、1枚好きなカードを抜き出し、そのカードを交換して、それぞれのデックのボトムに置く。お互いにデックをカットしデックを裏向きに広げると、デックの色が何と入れ替わっており、中にそれぞれ1枚だけ色違いのカードがある。それが選ばれたカードであり、もちろん2枚のカードは一致している。

エルムズレイの代表作の1つとも呼べる傑作です。Do as I doとカラーチェンジングデックを合わせたようなトリックで、もちろんちょっとした準備が必要なのですが、この種の現象の中でも、群を抜いて強烈です。にも関わらず全く難しくはありません。初めてこのトリックを知った時に、合理的な組み立てに感動しました。是非覚えましょう。

こんな素晴らしいトリックが解説されている書籍やDVDが、ほとんどないという事実。ビジュアルでクイックなトリックもいいですが、こういうトリックを覚えておけば、他のマジシャンと差を付けられるかも知れませんよ?

3. A strange story
現象/青裏のデックのトップから、2人分のポーカーハンドを配る。1人目の手はスペードのロイヤルストレートフラッシュだが、2人目の手も同じスペードのロイヤルストレートフラッシュ。2人目のカードをひっくり返すと、赤裏である。それだけでなく、デックを裏返すと全て赤裏のカードになっている。

これまた強烈な現象です。ポーカーデモンストレーション+カラーチェンジングデックという感じですが、この2つを混ぜてしまおうなんて、普通考えませんよね(笑)。

セカンドディールを使いますが、エルムズレイが「私のセカンドディールは全然大したことない。私はこれ(自分のセカンドディール)を『トップグライド』と呼んでるよ」と言っていて、ちょっと笑ってしまいました。全然大したことなくはないのですが、自らそういうだけあって、セカンドディールを行う際は、カードを表向きに配る、つまり「デックではなく、配るカードの方に注目が行くようにしてある」のが、巧みです。

そのまま演じたのでは何が何やら分かりませんから、エルムズレイ自身も「奇妙なポーカーゲーム」というストーリーをつけて演じています。ここは自分なりに考えてもいいでしょうね。

4. Color filter
現象/赤黒が交互になった8枚のパケットを使う。ハンカチでパケットを包み、観客に赤か黒を選ばせる。と、選ばれた色のカードがハンカチの外に抜け出てくる。

カードスルーハンカチーフに一工夫した手順です。少しハードな手順ではありますが、上手く演じられればかなりインパクトは強いでしょう。ただ、一般の方であれば、単に選んだカードが1枚抜けてくるだけでも十分驚きますから、少しマニア向けの手順という気がしなくもありません。一箇所難しい技法を使う以外は、さほど難しくもありませんから、この手の現象が好きならば、覚える価値は十分にあると思います。


5. Multiplying aces
現象/1枚のAを空中で消すが、また現れる。そのAが次々と増え、4枚のAになる。

クロースアップ向けではないですが、サロンで演じれば映えそうなカードマニピュレーション。エルムズレイ自身も音楽に乗って軽快に演じています。カードが増えるところは、カードマジックというよりシカゴの四つ玉でも見ているようです。ハンドリングもよく考えられています。

ただこの手順は、ある程度手の大きさがないと辛いかも知れません(エルムズレイはブリッジサイズのカードを使っているように見えます)。当然のことながら、最初から最後までパームばかり使います。上手く演じられれば拍手喝采間違いなしでしょう。

6. En voyage
現象/スペードのAから3の3枚を使う。スペードのAをデックに入れておまじないをかけると、ポケットの中から現れる。Aは表向きにしてデックに混ぜ込む。2もデックの中に入れるが、ポケットの中から出てくる。3もデックの中に入れると、やはりポケットの中から出てくる。2も3もデックの中に表向きで混ぜる。おまじないをかけるとデックの中からAから3は消えてしまい、3カ所のポケットからAから3が出てくる。

ホーミングカードを複雑にしたようなトリックです。上の「Color filter」もそうですが、この手の物理的に不可能なことが起こるトリックの場合、私はシンプルな方が好きです。マジックを見慣れた相手や、マニア相手なら別ですが、一般の人相手にやたらと現象を複雑にするのは、得策ではないように感じます。

その意味で、興味深い手順だとは思うのですが、自分では演じないと思います。手順が易しいならまだしも、ハードな技法を連発しますし。手順が流れるように滑らかではなく、「よくは分からないけど、何かやってるんだろうな」という雰囲気が隠しきれてないんですよね。こういう、物理的不可能現象において、これは致命的のように私は思います。

しかし、手順は勉強になるところも多いです。サイドスチール風のカードのスチール法(ファンスチール。ビル・サイモンの方法だそうです)は、使い方によってはアンビシャスカードなどにも使えるでしょうし、最初のシークレットアディションからのスチール(スライドムーブ)も、応用できる手順も多いのではないでしょうか。

また、その次のテーブルのカードの改め方も、非常に賢い工夫で、使ってみたくなります。エルムズレイは、些細なところにも工夫が凝らされている手順が多いので、見逃さないでください。

7. Color-changing Faro shuffle
現象/デックを5つのパイルに分け、表向きにするとロイヤルストレートフラッシュが現れる。パイルを集めてファローシャッフルし、再び5つのパイルに分けると、全部のパイルの裏色が変わっており、やはりロイヤルストレートフラッシュが現れる。それを更にもう二度繰り返す。最後にロイヤルストレートフラッシュの5枚の裏を改めると、またもや裏色が変わっている上に、残りのパケットの裏色も5枚の裏色と同じになっている。

繰り返しが笑いを生む、Vol.1の「Dazzle」に似た雰囲気もあるトリックです。ファローシャッフルの性質を上手く利用し、4回も裏色が変わるのが面白い。またラストは非常に強烈で、目を疑いました。当然ながら、大変面倒な準備が必要ですが、それに見合うだけの効果はあるでしょう。準備をしておいて、ファローシャッフルさえできれば、技術的に難しいことはありません。なんだかこの巻は妙にカラーチェンジングデックの現象が多いですね。

最後のパケットスイッチは大胆ではありますが、初見では見事に引っかかりました。数あるカラーチェンジングデックの中でも、異彩を放つ手順と言えましょう。説得力もあると思います。

8. Moveless follow the leader
現象/それぞれ6枚ずつの赤いカードと黒いカードを使う。赤1枚と黒1枚をリーダーとして表向きにし、残りは裏向きでリーダーの前に重ねておく。手前のパイルを入れ替えても、トップカードをめくるとリーダーカードの色と同じ色のカードが現れ、リーダーカードを入れ替えても、パイルのトップカードはやはりリーダーカードの色に従う。

フォローザリーダーの手順ですが、「Moveless」のタイトル通り、技法要らずのほとんどセルフワーキング。ですので当然のことながら、非常にクリーンで怪しいところがありません。これは大変巧妙な手順です。解説を見てその狡猾さに唸りました。

また、入れ替えるかそのままかを相手に選ばせる箇所で使われている、チェンジ技法(デイリースイッチ)も凄い。簡単なのに、非常に強い錯覚を生む方法で、色々と応用が効くと思います。フォローザリーダーって、現象としては地味ではありますし、この手順も特にクライマックスがある訳ではないですから、現象だけをとればあまり興味をひかれないかも知れませんが、デイリースイッチを知らない方は、知っておくと大いに役立つはずです。

9. Card to wallet
現象/1枚のカードを選ばせ、表にサインさせる。サインカードをデックに戻した後、財布を取り出す。財布の中からサイン付きの選ばれたカードが現れる。

財布に通うカードですが、財布にもカードにも仕掛けがなく、技術だけですので、ある意味使い勝手のいいトリックかも知れません。カードをパームする方法は「En voyage」で使われていた手法と同様です。このスチール(パーム)方法は、ちょっと練習してみたくなりますね。財布の形状は少し選びますが、カードを密かに財布に置いてくる時の方法は見事です。


以上9作品。エルムズレイの作品は、実用性が高いものも多いのですが、独特の工夫が面白く、特に自分で作品を作ってみたい方は、必ずチェックしておくべきクリエイターの一人なのではないでしょうか。少し無理を感じる手順もなくはありませんが、そういうところからもクリエイター魂を感じますし、少なくとも動画でしか演じられないようなトリックはありません。

エルムズレイカウント、それにトリックだと「エコノミークラスデパーチャー」「ビトウィーンユアパームズ」「1002番目のフォーエース」くらいしか知らない方も、是非ともエルムズレイの巧妙で工夫が凝らされた手順構成を楽しんでください。
 

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The magic of Alex Elmsley vol.2

明けましておめでとうございます。今年最初の記事です。本当は、三が日のうちに記事を書きたかったのですが、他の趣味(音楽)関連で忙しく、更新の暇がありませんでした。

ところで、去年の年末に新しいiMacを買いました。それまでは妻のWindowsパソコンを使わせてもらっていたのですが、iMacは大変快適です。何せ、今のWindowsは、標準ではDVD再生用のソフトが入っておらず、フリーのソフトを使うと、一発でメニュー画面に戻れなかったり、非常に難儀でしたから(まあ、iMacには光学ドライブがなかったりするので、いい勝負ですが)。

では、今年初のDVDレビュー。エルムズレイの作品集第二巻です。二巻目も、素晴らしいアイディアの傑作が目白押し。

The magic of Alex Elmsley vol.2

1. 1002nd aces
現象/四枚のエースを伏せて置き、好きな一枚を選ばせる。その上に三枚のカードを乗せる。残り三枚のエースは消えてしまい、選ばれたパイルが四枚のエースになっている。

エルムズレイの有名な傑作です。エースアセンブリーですが、フォース(マジシャンズチョイス)を使わないというのが、一般的なエースアセンブリーと大きく異なる点です。

一般的なエースアセンブリーですと、1) 最初にA(とされているカード)を四枚置き、2) その上に無関係のカードを三枚ずつ置いていき、3) それから一つのパイルを選ばせますが、この手順では、2と3を逆にせざるを得ません。

原案でもこの手順でも、テーブルに置く時にはエースの全部、または一部は既にスイッチされていますが、観客にはまだエースがテーブルの上にあると思っておいてもらいたい訳です。原案では、三枚のカードを乗せてから、パイルを選ばせるという「時間差」によって、それを消極的に表現していますが、この手順ですと、最初に一枚を選ばせてから三枚を乗せるため、それを表現しにくい嫌いがあります。

なので、この手順では三枚を乗せたパイルを一度手に取り、一番下のエースのマークを確認させるという手間を入れています。その流れで、乗せた三枚が無関係なカードであるという事を証明しており、なるほどよく考えられた手順だなと思わせられます。

また、エースを消すところで、エルムズレイはデックをそれぞれのカードの上に乗せ、デックをリフルしてボトムカードを見せる、というのを三回繰り返しています。ただこれだと、その度にボトムカードが変わるというのがちょっと気になります。私は一枚消すたびにデックをカットしています。ダローは、三枚のカードをデックに差し込み、おまじないをかけてデックを表向きに広げ、エースが消えた事を見せていましたね。ここの表現方法は、色々考えられるところ。

結局、マジックというのは、一つの瑕を消そうとすると、どこかに新しい瑕が出来てしまうものですので、完璧なエースアセンブリーというのはなかなか難しいものです。この作品は、私自身も気に入って演じるレパートリーの一つですが、表現方法には注意が必要な作品だと思います。

2. Repulsive aces
現象/四枚のAを置いておく。二枚のカードを選んでもらい、四枚のエースでデックをこすると、デックのトップから一人目の選んだカードが現れる。それを四枚のAの中に入れると、消えてしまう。二人目のカードでも同じ事をする。その後、デックを四つにカットしてもらい、その上にAを一枚ずつ乗せてもらう。デックを一つにまとめ、デックを擦る。デックをリボンスプレッドすると、二組の二枚のAの間に一枚の裏向きカードがある。その裏向きカードは、二枚の選ばれたカードである。

大変説明がややこしいトリックですが、手順はとてもよく考えられています。冒頭のコントロールテクニックは、二枚のカードを楽にトップとボトムに運ぶ方法として、覚えておきたいですね。二人にカードを選ばせるというのも結構大変ですし、複雑なトリックですから、演じる機会は選ぶでしょうが、何かストーリーでもつけて演じれば面白いでしょう。

3. The Elmsley rising card
現象/一枚のカードを選んでもらいデックに戻す。デックをファンに広げると、選んだカードが一枚せり上がってくる。

ライジングカードの手順は色々ありますが、ファンにして上ってくるというのが独特です。ただ、アイディアはとても面白いのですが、カードに簡単とは言い難い仕掛けを作る必要があるため、これをレパートリーに入れるのは大変かも知れません。

エルムズレイらしく、手順はよく考えて組み立てられており、ギミックの存在を感じさせませんし、上手くやれば、ギミックが目に触れないように他のトリックを演ずる事も可能ではあります。とは言え、上手にじわじわカードを上がらせるのは、なかなか難しそうです。解説で、エルムズレイ自身もちょっと失敗してしまってますし(笑)。

4. Brainweave
現象/デックをファンに広げ、相手に心の中だけで一枚のカードを覚えてもらう。そのデックを背後に回す。再びデックを前に出し、ファンに広げると一枚だけ裏向きのカードがあり、それが相手が心で決めたカードである。

ブレインウェーブならぬ、ブレインウィーブ。ブレインウェーブデック(というより、むしろインビジブルデック?)のような現象を、レギュラーでやってしまうという、野心的な試みです。色々な意味で、メンタルトリックではなくなっているような気もしますが(笑)。ただ、それを実現するための手順は物凄く巧妙です。ファローシャッフルにこんな使い方があったのかと、脱帽しました。

5. Underworld
現象/数枚の赤いカードと黒いカードをよく混ぜ、トップから二枚のカードをとって、相手にどちらが赤いカードと思うか、指差させる。それを数回繰り返すが、相手が選んだカードは全て赤いカードで、手元に残ったのは全て黒いカードである。

アウトオブディスワールドのミニチュア版という感じのトリック。方法は、第一巻の「Power poker」と同様です。枚数は少ないですが、ガイドカードがある訳でもなく、配る時の例の技法以外は怪しいところもないため、大変フェアに見えます。覚えておいて損のないトリックでしょう。

6. Collinspell
現象/四枚のAの上に三枚のカードを加えるが、Aは次々と消えてしまう。使ったカードをデックにまとめ、よくシャッフルし、各カードのスペルでカードを配って行くと、四枚のAが現れる。

タイトルからお分かりのように、いわゆるコリンズエーセズ(アルファエーストリック)のバリエーションです。最初のAの消失のところは、グライドを用いた原案のやり方ではなく、それぞれ違う手法で消していて、面白いですね。

後半、四枚のAを現す部分ではスペルを使うので、日本ではちょっと演じにくいかも知れませんが、後半は原案通りのAの現し方でもいいでしょう。前半の消し方は色々と参考になると思います。

7. The floating ladies
現象/四枚のQをジョーカーの上に乗せると、だんだんQが浮かび上がる。

小品ですが、ビジュアル的効果の大きい浮遊トリックです。こってりしたトリックばかりでは疲れますから、こういうのを合間に入れると、いいアクセントになるでしょう。エルムズレイなのですが、ちょっとポール・ハリスっぽい(笑)。

ジョーカーにはもちろん仕掛けがあるのですが、ジョーカーはどのみちトリックの最初に取り除いてしまう事が多いカードですし、このくらいの仕掛けを忍ばせておいても、いいかも知れません。あるいは、これに使う一セットを、パケットケースに入れておくのも手でしょう。

8. Cross 25
現象/デックを二つに分け、よくシャッフルさせ、好きなところでカットし、その場所のカードを覚えさせる。デックを一つにまとめ、五つのパイルに配り、それぞれのパイルに覚えたカードがあるかどうかを尋ね、あると答えたら、そのパケットをポケットに入れる。この状態で、演者はポケットから相手のカードを抜き出して見せる。

数理的原理によるカード当てですが、感動するほど天才的な手順です。古くからある、行列状にカードを並べ、どの列に覚えたカードがあるかを尋ね、それを二回繰り返してカードを当てる方法(マトリックスの原理/列交叉の原理)に、フリーカットの原理を組み合わせ、一級の現象に仕上げています。

マトリックスの原理を使う作品では、どの列にカードがあるかを二回尋ねますし、ジェルゴンの原理を用いた21カードトリックでは、三回尋ねるので、その時点で数理的な気配を感じさせますが、何せエルムズレイの方法では、一度しかカードがあるかどうかを尋ねないので、原理の気配を感じません。

何と、一人目のカードがあるパイルの位置が、二人目のカードがある枚数目を示しており、二人目のカードがあるパイルの位置が、一人目の枚数目を示しているといるのです。その上技法を全く使いませんから、マニアでも引っかかってしまうでしょう。これほど巧妙な数理トリックには、滅多にお目にかかれないと言っても、過言ではありません。

カードを当てる際、エルムズレイは、パケットをポケットに入れて、手探りで取り出して見せていますが、ここは色々な見せ方が可能でしょう。とにかく、このトリックは是非知っておくべきです。


以上8作品。いずれも、その発想に感心させられる事間違いなしの作品ばかりですが、エルムズレイの作品は、発想が素晴らしいだけでなく、きちんと演じられる、実用性の高さも特徴だと思います(「アイディアは凄いけど、ちょっと演じられないよね」というトリックも多いですからね)。

特に「Cross 25」の為だけでも、このDVDを入手する価値があると言っても過言ではありません。「Cross 25」は非常に優れたトリックなのに、このDVD以外で解説されているのを、見た事がありません。このDVDは今ではもう入手困難ですが、見つけたら是非手に入れる事を、強くお勧めします。

エルムズレイの素晴らしい発想のトリックの数々を見ると、ただビジュアルなだけ、派手なだけで、動画でしか通用しそうにない「今風の」トリックが、実に薄っぺらく見えてきます。そういうトリックに比べ、見た目は地味ながら、骨太で巧妙なトリックの数々を、味わってみてください。 

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The magic of Alex Elmsley vol.1

久々のDVDご紹介記事。しばらく、トライアンフの記事とか、コロンビーニのノートなどの記事ばかり書いていましたからね。

マジックをやる人なら、名前を知らない人はいないアレックス・エルムズレイの作品集、全4巻の1巻目です。本当のマニアならば、書籍(Collected works of Alex Elmsley)を読むんでしょうけど、私はそこまでマニアではない&英語力がないので、DVDだけです。

エルムズレイカウントを使った事のないマジックファンは、恐らくいないでしょう。もしマジック界にノーベル賞があれば、受賞確実だと思います。とは言え、エルムズレイカウント(最初は「ゴーストカウント」と言いました)初登場時は、さほど注目されず、ヴァーノンの「ツイスティングジエーセズ」で、一気に注目を浴びたそうです。このDVDでは、その貴重な、エルムズレイカウント初登場時のトリックも実演、解説されています。

なお日本ではほぼ「エルムズレイ」と表記されますが、発音を聞くと「エルムズリー」に近い感じです。氣賀康夫さんや荒木一郎さんは「エルムズリー」表記ですね。冒頭の紹介にマイケル・アマーが出てくるのが豪華です(2巻以降では、観客役にもアマーがいた記憶)。

では行きましょう。このDVD、今ではもう入手困難のようです。メーカーは安心のL&L Publishing。

The magic of Alex Elmsley vol.1

1. Four card trick
現象/4枚のブランクカードを示すが、その中にいつの間にかジョーカーが現れる。「ジョーカーの行方を追ってください」と言って、4枚のカードを数える度に、ジョーカーは向きが変わったり、ブランクカードに変わったりして、最後にはジョーカーだけ裏色が変化してしまう。

エルムズレイカウントが初めて使われたという、記念すべきトリック。最後は全部調べさせられます。初登場時はどこかのマジックコンベンションで発売されたそうですが、あまり売れなかったそうです。

ちょっとマニアックなトリックなので、人に見せるには工夫が必要かも知れませんが、エルムズレイカウントの元となったともいえるデ・ラ・マーレのフォーアズファイブカウントや、ヴィクターのアイカウントも解説してくれており、歴史的観点からも、意義ある解説です。なお、エルムズレイ自身は、左手ピンチグリップから右手に数えています。

手順は、ヴァーノンの「ツイスティングジエーセズ」を彷彿させるところもあります。今このまま演じる人はあまりいないかも知れませんし、エルムズレイ自身のエルムズレイカウントは、それほどスムーズで上手いという訳ではないのですが、エルムズレイはパフォーマーではなく、クリエイターですから(本職は確かコンピューターのエンジニアのはず)、そこは当然かもしれません。

しかし、アマチュアのクリエイターが演技すると、非常につまらない事も多いんですが(ポール・ハリスやエドワード・マーローなんて、見ていて眠くなる)、エルムズレイは声に俳優のような張りがあり、意外とと言っては失礼ですが、演技も楽しめますよ。

2. New four card trick
現象/4枚のブランクカードを示すが、その中にいつの間にかハートのQが現れる。ギャンブルの話をしながら、4枚のカードを数える度に、Qは向きが変わったり、ブランクカードに変わったりして、最後にはQだけ裏色が変化してしまう。

現象説明がほとんど同じですが、現象としてもFour card trickとほぼ同じです。違うのは演出で、いわゆるモンテ系の演出がつけられています。それだけで意外と印象の違うトリックになっています。淡々とジョークを飛ばすエルムズレイが面白いですね。エルムズレイの演技スタイル、私は結構好きかも知れません。

3. Twisters flush
現象/ロイヤルフラッシュの5枚を取り出し、裏向きに1枚ずつ数えると、まず10のカードだけが表になる。続いてJ、Q、Kと、1枚ずつ表向きのカードが変わっていく。最後はAが表向きになるかと思いきや、カードを確認するといつの間にか4枚になっている。Aはポケットの中から現れる。

エルムズレイカウントの実験用と言った趣のあったFour card trickに比べると、随分見せる形として進化しています。プロットも「Aは特別なカードなので」と言ってみたりして、ツイスティングジエーセズ風ですね。派生技法の「エバーチェンジカウント」を使いますが、これがなかなか難しい。

なお、これの解説の後に、L&Lならではのプラクティスセッションでエルムズレイカウント、エバーチェンジカウント、ハーフパスの解説がありますが、その時の手のアップが、マイケル・アマーのように見えるのは気のせいか(笑)。

4. One poor lion
現象/4枚のAの上に、それぞれ4枚のJ、4枚のQ、4枚のKのパケットを、好きな場所に乗せてもらう。1枚だけのAの上に、他のパイルから1枚ずつカードを乗せていく。A、J、Q、Kの4枚のはずなのだが、なぜか4枚ともAになっている。

エースアセンブリーの一種です。にしてはちょっと手続きが複雑なので、上手く演じないと、何が起こったのか分からない恐れがあります。エルムズレイは、「4頭のライオン(A)と、4人の子供(J)、4人の女性(Q)、4人の男性(K)が」というような話をしていますが、私ごときの英語力では、細かいところが聞き取れません。エルムズレイがライオンの真似をするのが面白いです。ブリティッシュユーモアでしょうか(笑)。

なおこの作品は、デ・ラ・マーレのフォーアズファイブカウントを使います。これも結構難しいので、カウント系技法のいい練習になるかも知れません?

5. Separating the men from the boys
現象/4枚のKの間に、4枚のJを裏向きに挟み、4枚のQはテーブルに置いておくが、いつの間にかKの間に挟まっているのはQになっており、テーブルの上のカードは4枚のJになっている。

これも、エルムズレイはストーリーを話しながら演じています(4人の男性と少年と女性が……みたいに)。エルムズレイの作品を見ていて思うのは、手順構成の上手さもさることながら、演出に凄く気を配っているな、という点です。手順としては、最初でほぼ仕事が終わってしまうのが上手いですし、検めも考慮した構成になっているのが、さすがです。

6. Power poker
現象/10枚のカードを使う。2枚のカードから相手に自由に1枚選んでもらい、それを5回繰り返す。相手にはフルハウスの手が来るが、選ばれなかった5枚を開くとロイヤルストレートフラッシュになっている。

いわゆるポーカーデモンストレーションですが、技法と原理の見事な融合は、さすがエルムズレイです。使う技法も、少数枚ですからやり易いと思います。その技法の部分さえ除けば、ほとんどセルフワーキングで現象が起こると言ってもいいくらいです。フルデックを使ったポーカールーティーンだと、面倒なセットをしなくてはならない場合も多いですが、これなら気楽に演じられるはずです。

7. Spectator aces
現象/観客にデックを4つにカットしてもらうと、4つのパイルのトップからAが現れる。

スペクテイターカッツジエーセズの、エルムズレイの方法です。Power pokerと同じ技法を使いまして、そこさえ上手くできればとてもクリーンに見えるのですが、個人的にはこの手の現象にこの技法は、あまり使いたくない気がします。マーローの方法の方が、演者に優しいので、私はそちらを取りたいですね。

8. Economy class departure
現象/2枚のジョーカーの間に入れた相手のカードが消え、デックの中から表向きに現れる。

エルムズレイの代表作である「Point of departure」の、エルムズレイ自身による改案です。原案は確かデュプリケートを使うのですが、こちらはレギュラーで大丈夫です。ゆうきともさんの作品にも「EZポイントオブデパーチャー」というのがありますが、こちらの方が説得力がある反面、2枚のジョーカーは同じデザインでないといけません。

それにしても、タイトルが洒落ていますね。Point of departureというのは、飛行機の「到着点」というような意味だと思いますが、それを易しく行えるから、エコノミークラスなんですね。手順も演出も、エルムズレイにはいかにも「英国紳士」と言った雰囲気を感じるのは、私だけでしょうか。

9. Dazzle
現象/5枚のジョーカーのうち1枚だけが表向きになっている。その1枚を取り除き、裏の色が違う1枚を足すと、全部のカードの裏色が変わり、1枚がまた表向きになっている。それを何度でも繰り返す。最後は、裏もジョーカーの1枚(つまりジョーカーのダブルフェイス)を加えると、全てがジョーカーのダブルフェイスになってしまう。

これは強烈です。あまりにも何度も変化するので、観客からも途中から笑い声が起こっています。また、最後は全部がダブルバックのジョーカーになってしまうという、想像の斜め上を行く現象の凄さに、目を疑ってしまいます。ギミックカードを使うのと、冒頭でも出てきたエバーチェンジカウントを使いますが、原理的には何度でも変化させられます。

ただし、この手順に適したカードを手に入れるのが大変だと思います。自作してしまうのも手かも知れません。エルムズレイが使っているカードも、かなり古びていたので、自作してずっと使っているのでしょうか。使う技法も少しハードなので、演じるのは難しいかも知れませんが、現象を見るだけでも楽しめると思いますよ。


という全9作品。最新のDVDと比べて、パッと見は地味に映るものの、原理や技法の使い方や練られた手順構成が見事で、今見ても新鮮ですし、私は変な最新のDVDよりよっぽど面白く感じます。何より、エルムズレイ本人の演技がとても貴重です。マジックを大事にするなら、こういうマジック界の巨人の演技は、是非見ておいた方がいいと思うのですよ。

このシリーズは全4巻。残り3巻も、またご紹介しますので、期待せずにお待ちください。 

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