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Handle with Carey (John Carey)

暑い日が続きますが、皆様(皆様というほどここを見ている方おられませんが(笑))、いかがお過ごしでしょうか。

DVDレビューの5回目は、私一押しのジョン・キャリーのデビュー作です。タイトルの「Handle with Carey」は、「Handle with care」(取扱注意)に引っ掛けた洒落でしょうね。この人は、難しい技法を極力使わず、手順構成の賢さでトリックを組む名人です。また、ハンドリングも非常に自然で、いかにもな「技法感」がありません。派手さはないですが、玄人好みの上手さを見せてくれます。私はこの人の事を勝手に、「イギリスのゆうきとも」と呼んでいます(笑)。

どこだか忘れましたが、マジックのブログで「マジック始めて1か月、みたいな人はこのDVDでいいのでは」みたいなことを書いていらっしゃる方がいました。が、マジック始めて1か月というと、「とにかく強力な現象!」「難しい技法を覚えたい!」という感じのはずで、このDVDの価値は分からないと思います。

ある程度「人に見せて楽しませる」事の難しさを知った、中級以上の方は、このDVDには、きっと唸らされる事が多いはずです。それでは参りましょう。

Handle with Carey (John Carey)

1. Counting on you
現象/観客に、10から20の間の数を好きに決めてもらい、その枚数のカードをデックから数えてもらう。更に、数えた最後の枚数目のカードを覚えてもらい、取ったカードは全部デックに戻す。マジシャンはデックをシャッフルした後、デックからカードをまとめて取るが、それが相手の取った枚数と同じであり、更に枚数を確認したパケットの一番上から、相手の覚えたカードが出てくる。

文章で書くとちょっとややこしいですね。賢い解決法ですが、カードの名前と取った枚数を2つ覚えさせないといけないので、意外と状況を選ぶかも知れません。手法自体は幅広い応用が利きそうなので、色々考えてみると面白いでしょう。

2. Simple fusion
現象/相手に1枚カードを選ばせ、マジシャンがその表にサインする。もう1枚カードを選ばせ、今度は裏面に相手にサインさせる。そのカードを相手の掌中に挟ませるが、デックの中ほどに1枚だけ表向きに戻ってくる。そのカードにおまじないをかけると、裏に書いてあったはずの相手のサインが消えている。掌中のカードを開かせると、表と裏にサインがしてある。

一見「アニバーサリーワルツ」風ですが、あちらは「表にサインがしてある2枚のカードが融合して1枚になる」という現象なのに対し、こちらはサインが移動するという現象ですから、少し印象が違います。

最後は、サインが移動しただけでなく、掌中のカード自体が変化しているという、ちょっとした矛盾があるのですが、そこは気にしなくて大丈夫だと思います。こういう軽い矛盾を上手く利用しているのが、彼の優れたバランス感覚ですね。

3. Gemini detector
現象/相手に1枚のカードを選ばせデックに戻す。マジシャンは名刺を取り出し、相手に選んだカードの特徴を聞きながら何かを書く。デックから1枚ずつカードを配っていき、相手がストップをかけたところに名刺を置く。名刺を確認すると相手のカードの名前が書いてあり、名刺の隣のカードは選んだカードである。

タイトルからお分かりのように、「ジェミニツインズ」の原理を使っていますが、ライディテクター(嘘発見器)タイプの演出が卓越しています。これがなかったら、何とも淡泊なマジックになってしまうでしょう。観客とのやり取りを楽しんで演じたいですね。

4. 3 Chances
現象/観客に1枚のカードを選んでもらい、デックに戻す。マジシャンはデックを広げていき、相手に好きなところでストップをかけさせるが、2回やっても相手のカードは出ない。その2枚を表向きにしてアウトジョグしてスプレッドを閉じ、飛び出た2枚のカードを相手に押し込ませると、選んだカードが現れる。

プランジャーの原理を使った、即席ライジングカードです。相手に押し込んでもらうので、大変効果的で、これは私も愛用しています。キャリーのスプレッドカルが大変自然で、参考になると思います。I-Magicの小林洋介さんも書かれていましたが、パスを一生懸命練習するくらいなら、これくらい自然で綺麗なカルを身につけた方が、はるかに実践的だと思いますよ。

5. Balducci as I Balducci
現象/相手が選んだカードをマジシャンが、マジシャンが選んだカードを相手が、それぞれ当てる。

タイトルが技法名そのまま(人名か)という、大胆な作品です(笑)。タイトルの通り、バルドゥッチフォース(カットディーパーフォース)を使うんですが、この作品を知った加藤英夫さんが、「このフォースは不自然で使いたいと思わなかったが、この作品を見て、カードを選ばせる手段でなく、選ばれたカードを探す不思議な方法としてなら、使い道がある事に気づいた」を書かれていました。加藤さんの解説に付け加える事は、何もありません。

技術的には実に簡単ですが、絶大に受ける事は私が保証します。手順の簡単さで馬鹿にせずに、是非演じてみてください。

6. Sticking up for Larry
現象/1枚のカードをデックの中ほどに入れるが、そのカードが相手の指定した枚数目から表向きに現れる。

ラリー・ジェニングスのリバース、人呼んで「ラリバース」と呼ばれる技法を使った、トリックとしては小品とも呼べる手順ですが、観客に与えるインパクトは絶大です。アンビシャスカードとカードアットエニーナンバーの組み合わせとでも言いましょうか。私自身は、「何かマジックやってよ」と言われて、1つだけ見せる時にこのトリックを演じる事が多いですし、アンビシャスカードではラストにこの手順を持ってくる事もあります(アンビシャスカード自体滅多にやらないけど)。

ラリバースは、錯覚を利用した非常に賢い技法ですので、知らなかった方は是非覚えておいてください。こういう心理的盲点をついた技法を多用するのも、キャリーの特徴です。

7. Searching for a sandwich
現象/1枚のカードを選ばせ、デックに戻し、デックのトップとボトムにジョーカーを置くが、2枚のジョーカーが少しずつ距離を縮め、1枚のカードを挟む。もちろんそのカードが選ばれたカードである。

「サーチアンドデストロイ」「サーチャーズ」風ですが、これも錯覚を上手く利用して、かなり楽にできるようになっています。解説で、いわゆるアードネスチェンジ(フーディーニチェンジ)を、しつこいくらい何度もやってくれるので、「そこはもういいから、次を解説してくれ!」と思うかも知れません(笑)。

途中にやはり矛盾があるのですが、観客の意識に残りにくいような手順になっているあたりはさすがです。ちょっと腕に覚えのある人なら、ターンノーバーパスを使ってしまうところでしょうが、それをあのような負担が軽く、錯覚を利用した方法でやる辺り、キャリーの優れた現場感覚だと思います。ただそれをカムフラージュするため、2枚のジョーカーは同じデザインで演じるべきでしょう。レパートリーにしたいんですが、そこがネックだったりします。

8. Speccy magician
現象/デックから10枚程度のカードを抜きだし、相手に渡して、マジシャンに1枚のカードを覚えさせる。相手がおまじないをかけると、1枚のカードが消えている。デックをスプレッドすると、マジシャンが覚えたカードが表向きに現れる。

「マジシャンが覚えたカードを相手が当てる」という演出の作品は時々ありますが、なんと相手がカードアクロスを演じるという演出の作品。演出も非常に優れていますし、マジシャンがやるべき仕事は、手順の序盤で終了するので、後半は演技に集中できます。こういうのをこそ、真に実践的なマジックというのでしょうね。技術的にも実に平易です。

手元だけ映った動画を撮って自己満足する人には、この作品の価値は分からないでしょうが、人前で演じて「楽しませたい」と思う人ならば、きっとこの作品を気に入るはずです。これもお気に入りレパートリーになっています。

9. BTB
現象/観客がサインしたお札がマジシャンの手から消え、テーブルに置いてあった薬の容器の中から現れる。

お札の移動現象です。外国の人って実に気軽にお札にサインしますが(しかもマジックペンで)、日本人の感覚だと難しいですね。お札のナンバーを控えておくのも一つの手でしょう。最後のお札を取り出す時の錯覚の利用の仕方が、これまた賢い。唸ります。

問題はぴったりくる容器ですが、キシリトールガムの容器なんてどうでしょうか。薬の代わりにガムを使えば、上手く行きそうな気もするので、一度試してみたいところです。

10. WTF interchange
現象/デックをドリブルすると、4枚のAが表向きに現れる。相手に3枚のカードを選んでもらい、ポケットに3枚をしまう。1枚のAは胸ポケットに見えるように差し込んでおくが、ポケットの中からはAが現れ、手元に相手のカードが来ている。

いわゆるポケットインターチェンジ。現象説明だけ見ると難しい技法を使ってそうですが、難しい事は何もしません。パームも使わないというエクセレントな手順。確か、ゆうきともさんの「イロジカルチェンジ」で、同じ手法を使っていたと思いますが、元々はジョン・バノンの方法だったと思います。とにかく「労少なくして功多し」の見本みたいな手順です。

ただ、3枚のカードを選ばせるのが、現実的には演じる環境を選ぶかも知れませんが、立ったまま演じられる優れた手順ですから、立ったまま複数の人に演じる機会が多い人は、覚えておいて損のない手順だと思います。

11. Triple inpurseination
現象/財布を取り出し3枚のコインを使うというが、財布の中には1枚の銅貨しかない。その銅貨が、銀貨、チャイニーズコインと次々変化し、チャイニーズコインをポケットにしまってもまた手に戻ってくる。最後はチャイニーズコインも消えてしまう。テーブルに置いてあった財布を開くと、銅貨、銀貨、チャイニーズコインの3枚が中から出てくる。

トリプルスペルバウンドですが、ギミックを使ってとても楽にできるようになっている上、ラストはレギュラーしか残らないという、実践的かつ素晴らしい構成の妙。ブラボーです。最近は、やたら難しいテクニックを使うコインマジックが幅を利かせていますが、コインマジックの効果って、技法の難しさと比例しないというのが、こういう作品を見るとよく分かります。

ギミックは、コインマジックをやる人なら大抵持っているものですので(コインをあまりやらない私も、なぜか持っていた(笑))、これは是非覚えたい手順です。

12. GYS coin
現象/コインが現れたり消えたりするワンコインルーティーン。最後はジャンボコインに変化。

これも難しい技法は使わない、実用的なワンコインルーティーン。鼻の穴から落ちてくるのは、マイケル・アマーもやっていましたね。難しい技法は使わないのですが、すべての所作が自然で、何かやっているように見えないところがさすがです(これはカードについても同じです)。初心のうちは、こういうマジシャンの演技を参考にすべきという点では、冒頭に書いた「マジックを始めて1か月くらいの人におすすめ」というのは、ある意味当たっているかも知れません。


以上12作品。どれも実戦の場で磨き上げられている事が感じられるトリックばかりです。通常、1本のDVDでは1つ当たり作品があれば儲けものなのですが、このDVDはどれをとってもレパートリー候補が目白押し(私自身は、4作がいつも演じるレパートリーに入っています)。改めて今回見直しましたが、特にコインの作品は、以前見た時には気づかなかった優れた点に気づき、練習してレパートリーに入れたいなと思わされました。

なお、「Tool box」と称して、作品内で使用するいくつかの技法を解説してくれていますが、一番痺れたのは「Overhand false shuffle」です。何という大胆さ! それでいて、解説を見た後でも引っ掛かってしまう、強烈な錯覚。世に溢れるやたら難しい(それでいて角度に弱い)フォールスシャッフルを使っている方々は、これを見たら椅子から転げ落ちるかも知れません。そしてこれがきちんと身に着けられたら、他のほとんど全てのフォールスシャッフルは不要になる、かも知れません(ちと大げさ(笑))。

とにかく、トリックはもちろんですが、演出が巧みで、演技も自然体。「人前で演じて楽しませたい」という方は、是非このDVDを見てみてください。きっと参考になるはずです。 

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私がアンビシャスカードを嫌いな理由

ブログの自己紹介にも書いていますが、私はカードマジックでは一番人気ともいえる、「アンビシャスカード」が嫌いです。自分から積極的に演じる事は、滅多にありません(リクエストされれば演じる事もありますが……)。

一時のマジックブームの時、中高生のマジックファンが「やっぱアンビだよね」なんてやり取りしているのに、嫌気がさしたというのもありますが(笑)、演じるという面からすると、アンビシャスカードは極めて危険なトリックです。

まず、現象が同じ事の繰り返しです。それでいて、現象は超単純です。デックの真ん中に入れたカードが、トップに上がってくるだけです。

これだけ現象が単純ですから、まともな知性の持ち主であれば、「何度もじっと見ていれば、トリックがわかるに違いない」と、絶対に思います(トップに上がる度に「わー、すごーい」と拍手してくれる、お花畑な人は滅多にいるものではありません)。ですが、まともな腕前のマジシャンが演じたのであれば、まず絶対にアンビシャスカードのトリックというのは見破られません。やり方がいくらでもありますからね。

なので、下手な演じ方をしていると、観客はどんどんストレスをため込む事になる訳です。以前の記事でも書きましたが、私は「真ん中に入れたトランプが、指を鳴らすと一番上に上がってくるマジックを見せられて、マジックが嫌いになった」という人を知っています。

それは、アンビシャスカードというトリック自体が、大変に「挑戦的」な見せ方をせざるを得ないからです。演者が、細心の注意を払って、挑戦的じゃないような演じ方をしようとしても、観客の方がどんどん挑戦的になってしまう。そういう危険性をはらんでいるのです。

ですから、私はアンビシャスカードにパス系の技法など、言語道断だと思っています。理由は簡単で、ただでさえ挑戦的なトリックを、更に挑戦的にしてしまうからです。また「指を鳴らすと一番上に上がってきます」という演出も、よほどマジシャンが見せ方を心得ていない限りは、観客をより挑戦的にしてしまいます。

また、方法がいくらでもあるというのも、困りものです。観客が「こうしているのでは?」と想像したら、次々にそれを払拭して見せる。この見せ方自体が、更に観客に「そうじゃないんなら、じゃあこうやっているのでは」と考えさせます。つまり、更に観客を挑戦的にするのです。

アンビシャスカードというのは、「野心的なカード」という意味です。「このカードは大変野心的で、いつでもデックのトップに上りたがる性質を持っています」という台詞で本来始まるものですが、それは、挑戦的になってしまわざるを得ない空気を、ちょっとでも和らげるためではないかと推測します。

ダローは、「マジシャンはこのようにカードをコントロールします」と言って始めています。それも一つの方法でしょうし、ダローの演技スタイルもあって、あの演じ方はマッチしていると思います。

ですが、アンビシャスカードは(ついでに言うと「トライアンフ」も)「いただけない演じ方」をするマジシャンが、多すぎて、もう見ていて胸焼けがしてくるのです。アンビシャスカードのラストに、オムニデックで締めるべきか、ポップアップすべきか、アルティメットアンビションを使うべきか、なんてどうでもいい事を考えるくらいなら、もっと「少しでも挑戦的でない演技にするには、どうしたらいいか」を考えるべきではないでしょうか。

よく考えてください。例えば、ピアニストが技巧を凝らして難曲を弾きこなすと、観衆は魅了され、拍手を送ります。それは、「高い芸術性を表現するために、技巧を磨き上げたから」なのです。しかし、様々な技巧を凝らして、デックの中ほどに入れたカードがトップに上がってきたところで、それで終わったのでは、そんなものはただの理不尽現象に過ぎません。芸術と違い、「ただの理不尽現象」には、なんの価値もないのです。だからこそ、特にこのトリックは、演じ方に細心の注意が必要なはずです。

アンビシャスカードは「完璧なトリック」であると、よく言われます。私もそう思います。しかし、完璧であるが故の危険さも合わせ持っていると思うのです。その危険性をよくよく自覚しないと、「得意になっているのはマジシャンだけ」なんて事になりかねません。流行し過ぎてそこが見落とされている気がするのですが、本当に注意して扱わないといけないトリックだと、私は思っています。 

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Baroque compositions (Aldo Colombini)

DVDレビューの4回目は、コロンビーニの激安シリーズ。このシリーズ、コロンビーニが一人で淡々と演じて(奥様のレイチェルが時々声だけ参加してるが、だったら観客役で参加してもらえばいいのに(笑))、淡々と解説するだけなので、食指が伸びない方も多数でしょう。作りは安っぽいし(値段も安いけど)、チャプター設定もいい加減で、ちゃんとした作りのDVDに慣れている人なら、買う気が起きないかも知れません。

しかし、私はこのシリーズが好きで、結構買っています。全部が当たりの作品ではないですが、そんなのは映像が凝った最新のDVDとて同じ事。むしろ、淡々と見せてくれる分、分かりやすいです。それにコロンビーニの英語が物凄く聞き取りやすく、説明も上手いので、聞いているだけで分かります。チャプター分けがないのも、順番に見ていくのなら問題ありません。

コロンビーニって、手順構成のバランス感覚に物凄く優れたマジシャンだと思うんですよね。ちょっとマジックをかじった人は、むやみやたらに強力な現象を見せようとしますが、それで観客が喜んでくれるかと言えば、そうとは限らない訳でね。

では、行ってみましょう。DVDタイトルは、コロンビーニがバロック音楽好きなところから来ているらしく、作品名も全て音楽用語です。音楽用語ってイタリア語、つまりはコロンビーニの母国語ですね。

ちなみにコロンビーニは、なぜかエルムズレイカウントを、普通の人とは逆に左手にパケットを持って始めます(コロンビーニ以外では、ジョー・リンドフライシュも、エルムズレイだけ「逆持ち」だった記憶)。そのため、パケットの持ち方を見ただけで、「あ、エルムズレイカウントが来るな」と分かってしまいますが、それはご愛敬か。

Baroque compositions (Aldo Colombini)

1. Vivace
現象/4枚のKを使う。デックを好きなところから4つに分けてもらい、その上に1枚ずつKを乗せていくが、そのうちの1つのパイルの上から、4枚のKが現れる。更に、4つのパケットの上からそれぞれAも現れる。

言ってみれば、「エースアセンブリー」と「スペクテイターカッツジエーセズ」を合わせたような作品。最初のハンドリングが少し不自然な気もしますが、2つのトリックのいいところが合わさった、とても素晴らしい現象です。

エースアセンブリーって、実はアセンブリーではなくトランスポジションであって、本当のアセンブリーにしようと思うと、オープントラベラーズ(インビジブルパームエーセズ)みたいな見せ方にせざるを得ないのですが、このトリックは、デックを使う事で自然なアセンブリー現象に成功しています。

それだけなら「なんでKを4枚集めるのにデック使うの」という話ですが、更に分けられた4つのパイルのトップからAを現す事で、デック丸ごと使う事も正当化されました。お見事な手順です。「リセット」など、4枚のKとAを使う手順の前に、ぴったりなトリックです。セットも最小限なので、使いやすいでしょう。

2. Aria
現象/4枚のAの上に、表向きに3枚のカードを乗せていく。それぞれのパケットをデックのボトム付近、真ん中近く、トップ付近に入れていき、最後のパケットはトップに置くが、一瞬でトップに4枚のAが現れる。

これもデックを使ったエースアセンブリー。「アセンブリーアンビシャス」あるいは「アセンブリーエレベーター」という感じの現象です。エースのスイッチの仕方が賢く、説得力があります。最後J.K.ハートマンのブロウアウェイチェンジで、4枚のエースが現れるところも綺麗ですね。

ただこの技法は、手が小さい日本人だと最後は少し難しいかも知れません。ブレイクから下のデックをひっくり返して現す方法で置き換えるのも一つの手でしょう。手軽でほどよいパワーの、とてもいい作品です。

3. Sarabanda
現象/2枚のカードを選んでもらい、デックに戻す。デックを3つにカットしてもらい、うち2つのパイルの上に、黒いKを乗せる。デックを1つにまとめ、リボンスプレッドすると、黒いKの下に、選んだカードがある。

とても手軽な、2枚のカード当て。デックをカットするのは、もちろん相手にしてもらえるので、とても効果的。難しい技法も使いませんしセットも不要。選ばれたカードを現すのって、やたらビジュアルにやるのが好きな方もいらっしゃいますが、観客に少し手伝ってもらう方が、何倍も効果が増すと私は思います。こういう手順、覚えておきたいですね。

4. Concerto
現象/1枚のカードを覚えてもらい、デックに戻す。4枚のJをデックの表向きに示すが、示す度にJが1枚ずつ消えていく。デックをスプレッドすると、4枚のJの間に3枚のカードが裏向きに挟まっている。最初の1枚は覚えたカードの数を示し、2枚目は覚えたカードのマークを示し、3枚目は覚えたカードそのものである。

現象説明だけ見ると「コレクター」風ですが、カニバルカードと言うか、エイペックスエーセズと言うか……。私はコレクターは好きではないのでやらないのですが(そもそも、3人にカードを覚えさせるという機会が、まず滅多にないし、3人の相手がいたとして、全員にカードを覚えてもらおうとはとても思わない)、最初の2枚は、覚えたカードを示すインディケーターカードというアイデアは、使えますね。

これもセット不要です。コロンビーニ氏、非常にラフな感じで演じており、ブレイクの取り方も大雑把ですが、個人レクチャーをそのまま撮影したみたいな感じで、これはこれでありかと(笑)。

5. Cantabile
現象/3人にカードを選ばせ、デックに戻してもらう。1枚のカードを示し、3人に「これですか?」と聞くが、3人とも「違う」と答える。なので、1人目に「あなたのカードの色はこれですか?」、2人目に「あなたのカードのマークはこれ?」、3人目に「あなたのカードの数字はこれ?」と聞くと、3人とも「はい」と答える。そこでデックを裏向きにスプレッドすると、3人のカードが表向きに現れる。

面白いカード当てです。セットが少し必要ですが、演技中にやってしまえるレベルです。こういうトリックは、演じ方を大切にしたいですね。コロンビーニは、強烈な不思議さを押し付けるのではなく、観客とのやり取りで楽しさを感じさせるタイプのマジシャンなので、こういう作品はぴったりです。

6. Affettuoso
現象/1枚のカードを選ばせ、デックに戻してもらう。トップカードを示し、デックの中ほどに差し込む。そのカードのすぐ下のカードを見ると、トップカードになっている。差し込んだカードを確認すろと、それが選んだカードである。

最近流行り? 「キックバック」風の、不条理なカード当て。こういう、複数の現象が一度に起こるトリックは、上手に示さないと訳が分からなくなる恐れがありますが、これはやってみたくなるトリックです。不条理感を上手く表せれば、面白いでしょう。

なお、トリックカードを1枚使いまして、一般的と言えば一般的なトリックカードですが、条件の揃ったものはなかなかないんじゃないの、と思ったら、I-Magicではトリックカードをおまけに付けてくれました。太っ腹!

7. Maestoso
現象/1枚のカードを選ばせ、2枚の絵札の間に挟む。その状態で3枚をカードケースに入れてしまうが、一瞬で選ばれたカードだけが抜け出てくる。ケースの中には、もちろん2枚の絵札しかない。

お手軽、かつビジュアルな移動現象。選ばれたカードを2枚の絵札に挟んで、デックの上で示すところが、ちょっと「ヴィジター」っぽい? カードケースからの脱出現象ってあまりありませんが、非常に簡単な方法で実現しています。手軽ながら巧妙な方法で、初見では見事に引っ掛かりました。

手軽ですが強力なトリックで、これはお気に入りのレパートリーになっています。

8. Moderato
現象/デックのボトムカードをマジシャンが覚え、カットしたところのカードを相手に覚えてもらい、2枚のカードを表が合わさるように、デックを半分表、半分裏の状態にする(言葉で表現しにくい!)。デックを確認すると、境目のところにあるはずの2人のカードは消えている。再度デックを確認すると、まずマジシャンのカードが表向きに現れる。表向きに1枚ずつ確認するが、相手の選んだカードはどこにもない。相手の選んだカードの綴りに合わせて、裏向きにカードを配っていくと、綴りの枚数目のところから相手のカードが現れる。

文章では最初の部分が表現しにくいですが、選んだカードが一度消えてしまうところがよく考えられています。ただ、マジシャンのカードが現れた後に、観客のカードがどこにもないのを示すのが、順番としてはちょっと気になりますが……。でも面白いトリックです。

スペリングカウントを使いますが、これは日本語でもできますし、何なら選ばれたカードの数字で現してもいいでしょう(要するに何枚であっても対応できるという事です)。

9. Adagio
現象/1枚のカードを選ばせデックに戻させる。3枚ずつのパケットを4つ作る。各パケットのトップカードが、選ばれたカードを教えてくれると言って、次々に開いていくが、情報は全然でたらめである。パケットを重ねていくと、覚えたカードと同じ数字のフォアオブアカインドが表向きに現れる。

当てると言って全然当たらないところが面白いカード当て。また、このトリックの見どころは、簡単かつ有用なボトムコントロールです。

原理はコンビンシングコントロールと同じなのですが、何せコンビンシングコントロールを、本当にconvincing(説得力ある)にできる人ってあまり見ませんので(汗)、このコントロール方法を採用する価値は大いにあります。コンビンシングコントロールを完璧にできる人なら必要ないかも知れませんが、そうでなければ、コンビンシングコントロールよりも、はるかにconvincingです(笑)。

10. Sinfonia
現象/2枚のカードを選ぶ(例えばスペードの2と5)。1枚をテーブルに置き、1枚をデックのトップに置くが、いつの間にか入れ替わっている。続いて、2枚ともテーブルの上に置くが、ハートの2と5に変わってしまっている。「わかりにくいから表向きでやりましょう」と言って、ハートの2と5の位置を入れ替えるが、裏返すと裏の色が変化してしまっている。

最初は2枚の入れ替わり、次は表が変化して、最後は裏まで変化するという、たたみかけるような連続現象です。相手の裏をかきつつ、徐々に不可能度(不条理度)が上がっていくという、とても面白いトリック。もちろん準備は必要なのですが、それを補って余りある効果があると思います。難しいテクニックも必要ありません。ちなみにトリックカードは使いません。これはやってみたくなるトリックですね。

11. Spiritoso
現象/1枚のカードを選んでもらい、3枚のダブルバックカードに選ばれたカードを重ねると、ダブルバックに一瞬で表が現れ、しかもそれは選ばれたカードのフォアオブアカインドである。

トリックカード不要な、お手軽手順。なのですが、個人的にはダブルバックというものが存在するというのを、観客に示す手順は、あまり好きではなかったりします(だから「オールバック」も、実はあまり好きではありません)。トリック自体は手軽ですが、最初の3枚は、デックから抜き出して使えないですし(使ってもいいですが、技法が1つ必要になってしまいます)。

演じるとしたら、むしろパケットケースから「これは特別なカードです」と言って取り出すなど、上手に演出をつけたいところですね。

12. Capriccio
現象/1枚のカードを選んでもらい、表にサインをしてからデックに戻す。4枚のカードを取り出すが、選ばれたカードは含まれていない。1枚の裏にスマイルマークを書いてから、カードを数えていくと、スマイルマークの数がどんどん増えていき、4枚とも裏にスマイルが現れる。もう一度数えていくと、今度はスマイルマークが減っていき、1枚の裏だけにスマイルが残る。それが選ばれたカードである。

大変ユニークなトリック。途中スマイルマークがどんどん増えていくところの不条理感がたまりません。L&Lから出ているコロンビーニのDVD「The essential Aldo Colombini」の3巻に、「Have a nice day」として、スマイルマークのシールを使う同じ手順が入っていますが、こちらはペンで書くだけなので、より演じやすいでしょう。

準備は必要と言えば必要ですが、手順も難しくなく効果的で面白く、これは覚えておきたいトリックです。こういうトリックを、「笑いが起きる」ように演じたいですね。


と、たっぷり12作品。安っぽい作りのDVDですが、巧妙で効果的な作品が多く、コストパフォーマンスも素晴らしい1枚です。コロンビーニタッチの神髄を味わえると言っても、大げさではないでしょう。未所持の方は、是非手に入れてください。必ず、いくつかはお気に入りのレパートリーになる作品があるはずです。 

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Emotional reaction (Dai Vernon)

梅雨が明けたと思ったら、とてつもなく暑い日々が続いていますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。もっとも、梅雨が明ける前から既に暑かった、という話もありますが……。

では、トリック紹介の2回目。

■Emotional reaction (Dai Vernon)
現象/観客が1枚のカードを選び、デックに戻す。マジシャンは一切デックに手を触れない。マジシャンは、観客の感情の反応を読み取ってカードを当てる。

現象説明を読んだだけでは、何とも他愛のないトリックに見えるこの作品。言ってみれば、単純なキーカードロケーションによるカード当てなのですが、キーカードロケーションの常識の裏をかく演出になっているため、一級の不可能現象になっています。

一般的なキーカードロケーションでは、「デックのトップに戻してもらって、カットする」です。これなら誰でもキーカードだと分かります。そのため、色々な工夫が考えられてきました。しかし、どうやろうとしても、マジシャンがデックをある程度いじらないと難しいものがほとんどです。テイクジスグリンプスにしろ、クリンプにしろ、どうしたってトリックの進行中に、秘密の動作をやる必要があります。

その点このトリックは、マジシャンはデックに触れません。いえ、正確には触れますし、その時に全部の仕事をやってしまうのですが、巧みな演出でそれが観客の意識に残らないように工夫しています。テクニックだけ考えていても、また手順だけ考えていても、思いつかないトリックであると言えましょう。

一般書籍では、「カードマジック入門事典」「ラリー・ジェニングスのカードマジック入門」という、カードマジックを趣味とする者ならば誰でも持っている2冊に解説されていますが、演じた事のある人がどれほどいるでしょうか。私はとてもお気に入りのトリックでよく演じるのですが、テクニック至上主義者からは、つまらないトリックのように思われるかも知れません。

でもこれは、大変パワフルなトリックです(アマーの「Easy to master card miracles」のシリーズに、これが入っていないのが謎)。何せ、「ラリー・ジェニングスのカードマジック入門」によると、著者の加藤英夫さんは、初めてこのトリックを見た時、「絶対に当てられっこない」と言ってしまったそうですから。

それほど、マジシャンの思い込みの裏をかく賢い手順と、その手順を生かす演出。さすがは、プロフェッサーとしか言いようがありません。

加藤英夫さんが「ラリー」で書いておられるように、この作品は変に凝った当て方をしない方が賢明であると、私も思います。むしろ、「感情の反応を読んで当てる」という演出に、どれだけ真実味を持たせられるかが肝であると言っても、過言ではないでしょう。その意味では、テクニック自慢のカーディシャンが、ただ手順だけをさらっと演じても、このトリックのパワーは半分も生かされないと、私は思っています。

また、加藤英夫さんも高木重朗さんも書いていますが、相手が持っているパケットをカットさせるのは、最初からそのように説明するのではなく、戻させる時に、「あ、万が一にもあなたのカードが見えてはいけませんから」と、思い出したようにやるべきです。こういう、テクニック的には何も難しくないトリックの場合は、そういう些細な気配りを大事にすべきです。

いじりどころのない完璧な作品なのですが、ジョン・キャリーはDVDで2種類の改案を発表しています。1つは、見えないデックを用いてのDo as I do現象(「24 seven vol.1」収録「Imaginary reality」)。もう1つは、マジシャンが思ったカードのイメージを、観客が当ててしまうという現象(「Eclectica」収録「Sent and received」)。いずれも、ハンドリング自体はヴァーノンの原案と少しも変わりませんが、演出で全く違う味の作品になるのに驚きました。

それでいて、キャリーはこのトリックの良さを決して消していません。元のトリックの良さを生かしつつ、新しい味を加えた、良い改案だと思います。このトリックを気に入っている人は、必見ですよ。

手順が簡単だからと見過ごす事なく、また簡単だからといい加減に演じる事なく、ヴァーノンの手順やセリフの意図をきちんと理解して、しっかり演じましょう。こういうトリックをいかに演じられるかというのは、その人のマジシャンとしての実力を測る試金石になると思います。 

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私が利用したマジックショップ

先日、2年ぶりにマジックDVDを購入したんですが、購入先は「I-Magic」でした。私はほぼここから商品を買っています。I-Magicの他には、時々「フレンチドロップ」でも買いますが、ほぼこの二店からしか買いません。

理由は、この二店は「商品説明がきちんとしているから」です。DVDにしても、ちゃんと一通り見て解説を書いているのがわかります。だからこそこの二店は、「おすすめ」などのマークがつけられるのでしょう。自分で商品を確認していないと、そんなのつけようがありませんからね。

商品説明って、普通のお店ならば、店側が自分で書くのが当たり前だと思うのですが、マジックショップにおいてはそうでもないようで、メーカーの説明をそのままコピーしているショップが多く見受けられます。中には「これGoogleで翻訳したのか?」みたいな、直訳説明を載せている店も。

そんな店からは、とても商品を買う気になれません。だって、ただ仕入れて何も確認しなくても売れるって事ですし、そんな店に何か質問のメールを送っても、誠意ある対応が来るとは思えませんから。

私がI-Magicを気に入っている理由は他にもありまして、DVDの説明でも「この手順は、正直駄作です」「収録作全部が名作とは言えません」と、堂々と書いてしまっている事(笑)。「いいのか?」と思わなくもないんですが、だからこそ価値のない商品は取り扱わないだろうという信頼が持てます。

またDVDでも、分かりにくいと思えるものには、独自に日本語解説書をつけてくれたり、とてもユーザー思いです。取り扱う商品も間違いがないものが多く、ここが一番気に入っています。

フレンチドロップの特徴は、ユーザーによるレビューがある事ですが、これは正直あまり参考になりません。どう見ても子供が書いたと思えるものとか、「解説が英語なので、星を1つ減らしました」とか、「何じゃそら!」と思いますし(笑)。

他のショップで利用した事があるのは、フェザータッチマジック東京マジックmonthly magic lesson shoppersマジックショップMまほうとまほうマジックエクスプレスオンライン(DPグループ)、フィールズマジックです。フェザーは、メンタル系に強いですが、商品説明がちょっと、な事があるので、注意が必要です。あと、結構「当たりとは言えない商品」も取り扱っている印象が(汗)。

東京マジックは、意外なDVDが未だに売ってたりして、侮れません。DVDの説明が、若干意味不明な事もありますが、少なくともメーカーのコピーではないのは好感が持てます。

monthly magic lesson shoppersも、商品説明はちゃんと書いていてくれています。が、この店の欠点は、DVDがジャンル分けされていない事。「カード」とか「コイン」とか、ジャンルに分けてくれるといいのですが。

マジックショップMは、10年以上サイトがほとんど変わらない古風な感じですが、ここも親切なお店です。英語のDVDに日本語訳がつけられるのですが、翻訳がとてもいいです。ダローのアンビシャスカードのDVDは、スクリプトマヌーヴァの字幕版より、私はマジックショップMが独自につけてくれた日本語訳の方がよくできていたと思います。

まほうとまほうは、子供に対して演じるマジックに特化したショップで、元保育士さんが運営されています。普通のマジック道具も売っていますし、DVDや本も売っていますが、ここは解説書が非常に丁寧です。ステージ、サロン系の道具なら、ここから買うのもおすすめです。何よりここも、「ハズレ」はまず取り扱っていないと言っていいと思います。

DPグループは、メーカーですから自社製品のみの取り扱い。動画が大量にあるので、見ているだけでも結構楽しめます。めるしー渡辺さんの、安定感のある演技が素敵です。ここは、バイスクルやナビゲーターのレギュラーデックが、とてもお買い得なので、デックをダース買いする方は、ぜひ。バイスクルは箱が新しくなったものではなく、以前のままのデザインが買えます。

そしてフィールズマジックは、以前よく使っていました。当時タリホーを愛用していまして、ここはタリホーを比較的安くダース買いできたのです。品揃えも豊富でお気に入りの店でしたが(DVDの説明は、トリック名だけだったりして少々手抜きでしたが)、今はサイトが開店休業状態ですね。どうしてしまったんでしょう。

買い物は、本来は店で実際に手に取り、詳しい店員さんに質問して買うのが一番なんでしょうが、マジック用品やマジックDVDは、取り扱っているお店が非常に少ないため、どうしても通販に頼る事になります。いいお店と、いい関係を続けられるといいですよね。 

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Easy to master card miracles vol.3 (Michael Ammar)

暑い日が続きますね。今日は朝から、町内会の草刈りに行ってきて、既に疲れています。では、DVDレビューの3回目です。このシリーズは、見返すと本当に色々と新しい発見がありますね。ジャケット写真の、アマーの横顔が男前です。

Easy to master card miracles vol.3

1. Haunted pack (Al Baker)
現象/1枚のカードを選ばせ、デックに戻してもらい、デックを掌の上に乗せると、デックがひとりでに動いて、選ばれたカードが出てくる。

このvol.3は、道具を使うマジックが多いような気がします。これも道具による準備が必要ですが、効果は大変大きい作品。道具の説明でアマーは「デンタルフロス」(歯の掃除に使う糸ようじ)と言っている気がしますが、それを使う手があったか、と(笑)。

準備自体はそこまで大変ではないですし、ラストは手渡しも可能です。ちょっと本格的なマジックショーには、こういうマジックも良さそうです。タイトルが「Haunted pack」(幽霊トランプ)ですから、マジシャンの不思議な力で動かす念力マジックではなく、デックに何かが宿った、という演出で演じたいところ。

2. Between the palms (Alex Elmsley)
現象/1人の相手の掌に、1枚のカードをはさんでもらっておく。3枚のカードを選んでもらい、1枚にはサインと現在時刻を書いてもらう。最初のカードは3秒、次のカードは1秒で当て、カードをはさんでもらっている相手の掌の中に入れていくが、最後の1枚は時間を遡って当てるという。最初から掌の中にあるカードを確認すると、それがサイン付きの選ばれたカードである。

これも準備が必要ですが、強烈な不思議さを持つアレックス・エルムズレイの名作。現象としては「ミステリーカード」「サインドカード」と似ていますが、「だんだん短い時間で当てて行き、最後の1枚は時間を遡って当てる」という演出が面白いです。

ちなみに、原作者であるエルムズレイ自身は、最初の2枚のカードは別々のポケットから取り出す、という演技です。「最初の2枚は空間を飛び移らせ、最後の1枚は時間を飛び移らせます」という演出。これはこれで面白いですが、最初の2枚をポケットから出すところも結構インパクトがあって、ラストのインパクトが少し弱まっているきらいがあります。

なので、私としては、最初の2枚をシンプルにカットであらわし、ラストの1枚に焦点を持ってきたアマーの演出に軍配をあげたいところです。エルムズレイからは、「俺が原作者なのに!」と怒られそうですが(笑)。

3. Twins (Brother John Hamman)
現象/4枚の絵札を示す。スペードのキングとスペードのクイーンが2組あるが、これが次々と変化する。

ジョン・ハーマンの作品ですが、使われている技法があまりEasyではない気がするのは、私だけでしょうか(汗)。この技法さえ身につければ、シンプルな手法で次々とカードが変化するので、面白いのですが、絵札のマークが変わるだけですので、適切に演出しないと、訳が分からなくなる恐れがあります。

このトリックには「2組の双子のカップルがいました」「2人の女性が化粧室に行っている間に別の双子の女性が」というストーリーがありますので、必ずストーリーをつけて演じましょう。現象を淡々と説明したのでは、意味不明ですから。上手く物語をつけて演じられれば、面白い現象だと思います。レギュラーのカード4枚しか使わないので、使い勝手もいいでしょう。

ただ、デックから4枚抜き出して、それが2組の同じカード(2組のデュプリケート)という見せ方も、ちょっと気になります。最初に2組の双子を見せた時点で既に妙なことになっていますからね。演じるなら、パケットケースにでも入れておいた方が、怪しさがないかも知れません。デックから取り出す場合は、見せ方に注意した方がいいかも知れません。この作品は演じなくても、ジェミニカウントという技法は、割とクリーンで有用なフォールスカウントとして、覚えておきたいところです。

4. Title bout (Martin Nash)
現象/デックを裏表ばらばらに混ぜ、この状態でカットで4枚の同じカードを取りだして見せるといい、3枚までジャックを取り出すが、4枚目は4である。おまじないをかけると、3枚のジャックは4に変化し、デックを裏向きにスプレッドすると、カードの向きが全て揃っており、4枚のジャックだけが表向きになっている。

トライアンフとマジシャン対ギャンブラーを合わせたような作品ですが、これも一部のハンドリングは、少々Easyとは言い難い気がします。また、現象が複雑ですから、かなり上手に演じないと(テクニックが、ではありませんよ)、相手が混乱を起こす危険もありそう。

アマーの演じ方自体はとても参考になります。最初に普通のカットでやってみせて失敗し、「今のはデモンストレーションだよ」と言ってみたり、最後4のカードにおまじないをかけてみせ、「これでこれがジャックに変わったら凄いですよね」と言ってみたり、複雑なこの作品を、とても上手く演じていますね。

5. Opening stab (Steve Beam)
現象/1枚の封筒を取り出し、それをデックの好きなところに差し込んでもらう。デックを表向きに広げると、マーク別に数字が全部揃っているが、1枚だけ欠けているところがあり、そこに封筒が差し込まれている。封筒を開けると、まさにその場所に抜けているカードが入っている。

シンプルですが素晴らしい効果のトリック。この原理(プロフェシームーブ)を使うトリックの中でも、屈指の傑作と言っていいと思います。庄司タカヒトさんとはやふみさんの「ケセラセラ」という冊子に、これとほぼ同じ「ここだトランプ」という作品が入っていて、そちらは道具を使いませんが、この作品はぜひ封筒を使って演じてみたいです。

とは言え日本では、カードが透けずに、大きさもちょうどいい封筒を探すのが、ちょっと難しそうではありますが。

6. Card stab (Nate Leipzig)
現象/2人の相手に1枚ずつカードを選んでもらう。デックに戻してもらい、デックを紙ナプキンで包んでから、ナイフで一刺しすると、ナイフで刺したところから選んだ2枚のカードが現れる。

原案ライプツィヒ。クラシックの中のクラシックです。これもシンプルな原理ですが、アマー流の味付けで演じやすくなっていると思います。紙ナプキンがなかったら、ペーパータオルでも新聞紙でも良さそう。ナイフを刺す時のアドバイスが実践的ですね。ただ、ナイフを持ち歩く人もなかなかいないでしょうから、演じる機会は限られるでしょうが、一度はやってみたい、見栄えのするカード当てです。

7. Card in wine glass (Navin Martini / Michael Ammar)
現象/カードを選んでもらい、デックに戻す。1枚のカードを見せるが、それは相手のカードではない。そのカードをワイングラスに入れ、ハンカチをグラスの前で一振りすると、相手のカードに変わっている。

これはワイングラスとハンカチが必要。この巻、道具が必要な作品が本当に多いですね。カードチェンジの仕方自体は古典的ですし、よくやる方法としては袖でこすってパチン、という奴でしょうが、ワイングラスとハンカチで、ここまで印象の違うトリックになるんですね。

ですが、ワイングラスのような形状でないと演じるのが難しいため、上のCard stab以上に演じる機会はなさそうです(汗)。アマーの演技では、ワイングラスに少しだけワインが注がれており、最後アマーがワインを飲んでしまうのが、とてもおしゃれです。こんな演技が似合うマジシャンになりたいものですね。

8. Jazz aces (Darwin Ortiz / Peter Kane)
現象/4枚のエースと4枚の数字のカードを使う。スペードのエースをリーダーとして表にしておき、そこに数字のカードを裏向きに置く。残りの数字のカードの間に、エースを入れるが、エースは消えてしまい、リーダーのエースの元に現れる。それを繰り返し、リーダーのエースの元に全てのエースが集合する。

有名な作品ですが、何とも現象説明がしにくいです。この手順は、ピーター・ケインのオリジナルではなく、ダーウィン・オーティズの改案「モダンジャズエーセズ」ですね。

オリジナルは、エースを消す際にエルムズレイカウントを繰り返しますが、このバージョンでは3枚それぞれ違う消し方をします。ハンドリングは好き好きでしょうが、私は原案よりこちらが好きです。改案が上手く行った例だと思います。

この作品は、同じ事を繰り返すので変化をつけたくなるのか、ラストにどんでん返しがある改案が色々あります。が、どの改案も、そのために手順に無理が生じ、オチも無理やりな印象。ハンドリングに手を加えた、オーティズのこのバージョンくらいが、ちょうどいい感じです。

9. Card in wallet (Gary Plants / Michael Ammar)
現象/カードを選んでもらい、細かく破いてもらい、破片の1枚を持っておいてもらう。残りはクリップで止め、手をかざすとなぜかクレジットカードに変化する。ポケットから財布を取り出すと、財布の中には選ばれたカードがあり、角を除いて元通りになっている。観客が持っていた破片と、角は一致する。

これも道具が必要ですが、なかなか強烈な現象です。トーンドアンドレストアと「財布に通うカード」を合体させたような、豪華なマジックです。気軽に演じられるものではありませんが、余計なものを処理する時の手順の工夫など、参考になる点が多いですね。こういう複雑なトリックを、アマーは実に分かりやすく(観客に親切に)演じるなあと、見ていて感心させられます。

10. Color-changing deck (Dai Vernon)
現象/青裏のデックから、2枚選んでもらう。そのカードにおまじないをかけると、赤裏に変化し、更に残りのカードも赤裏に変わる。最後に残った1枚の青裏カードも、赤裏に変わり、全部赤裏のカードになる。

カラーチェンジングデックって、よく考えたらvol.1の「レッドホットママ」にちょっと似ていますが、こちらを演じる人はあまりいない気がします(必要な準備は「レッドホットママ」とさほど変わらないのですが)。この手順はダイ・ヴァーノンのものですが、最後の1枚の処理が見事です。最初見た時、綺麗に引っかかりましたから。

無理なく演じられるカラーチェンジングデックとして、非常に優れた手順の1つだと思います。

Bonus effect / Xeroxed pack
現象/トランプの模様が印刷された紙に包まれたデックから、1枚選んでもらう。トランプの模様を確認すると、1枚だけ裏向きになっているカードがある。紙を裏返すと、裏向きのカードの中、1枚だけ表向きになったカードが書かれており、それが相手のカードである。

演出が全ての面白い作品。この包み紙を自分で作るとなるとかなり大変ですが(コピーすればいいんでしょうが、コピー機にカードを並べるというのは、かなりシュールそう(笑))、おまけでついてきます。シンプルイズザベストの見本のような作品です。


と、合計11作。道具や準備が必要な作品が多く、即興で演じられる作品が少ないのですが(ジャズエーセズくらいか)、その分アマーの演じ方、見せ方はとても参考になりますし、見ていても楽しい演技ばかりです。ただ、難易度的にEasyじゃないものが増えてきたような気もします。

あと6本残っていますが、これでこのシリーズは一区切りして、次回はまた違うマジシャンのDVDをご紹介します。とは言っても、アマーだけでDVDを17本も所有しているので、またすぐアマー先生のご登場となるでしょうけど(笑)。 

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PM宝石の飛行

今日、注文していたマジック道具が届きました。道具を買うのは、本当に久しぶりです。基本的に、レギュラーデックしか使いませんからね。

今回は、妻の買い物のついでで、送料の関係で一緒に何か注文する事になったのですが、せっかくなので前から手に取ってみたかったこれを買ったのです。

PM宝石の飛行

買ったのはこれ。DPグループの「PM宝石の飛行(銀)」。いわゆる「ジャンピングダイヤ」。パドルトリックの定番ですね。これもマニアな方々は軽視しがちなアイテムですが、パドルトリックってぱっと取り出してすぐ現象が起きますし、1つは持っておきたかったのです。

以前、マジックランドの「ストレンジスティック」を持っていたのですが、知人の娘さんにあげてしまったのです。で、今回はこちらを買ってみたという訳です。早速箱を開けてみましょう。

PM宝石の飛行2

「ジャンピングダイヤ」「ストレンジスティック」と、道具自体はまったく同じです。こちらは、メインが赤い宝石で、それがラストで緑の宝石に変化するようになっています。ルビーからエメラルド、というところでしょうね。何の金属でできているのかは書いてないですが、見た目はニッケルっぽいです。光沢も美しく、面取りもしっかりされていて、質感は高いです。

ただ、ストレンジスティックと違うのは、ケースが付属していません。この状態でポケットに突っ込んでおくしかなさそうです(汗)。ビニール製のものでもいいから、ケースがあれば良かったのですが。ストレンジスティックは、ケースが革製で高品質だったのに加えて、確かあのケースはどちらからも開けられるので、タネ部分を隠すのに都合がよかったんですよね。

そしてこのPM宝石の飛行、結構重いです。20gらしいんですが、数字以上に重く感じます。ストレンジスティックはアルミ製でしたが、これは材質は分かりませんが、とにかく持つとずっしりとした感じがあります。高級感があるとは言えますが、慣れないうちはパドルムーブがやりにくいかも知れません。私、乾燥肌なんで(コインを扱うのも苦手なんですが)、指先で滑るんですよね。

ただ、ストレンジスティックは使っているうちにメッキがはげてきたんですが、これはそういう心配はありませんから、気軽にポケットに入れておけそうですね。

しばらく練習してみます。 

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Untouched (Daryl)

今回は、私の好きなトリックをご紹介。トリックをご紹介と言っても、別にやり方を書く訳ではありませんので、念のため(笑)。

私は、高度なテクニックを駆使するマジックよりも、巧妙な手順や、見る側の錯覚や思い込みを利用した、「賢い手順」が好きです。そもそも私自身に、高度なテクニックがないというのも理由の一つですが(笑)、私にとって、マジックはある意味「知的な遊戯」でもあるのです。やたらテクニカルなものは、そういう「知的な喜び」が薄いのですね。

なので、アレックス・エルムズレイとか、ゆうきともさんとか、ジョン・キャリーとか、ジョン・バノンとか、あとはアルド・コロンビーニとか、最近ではライアン・シュルツの賢さには、マジックの現象よりも驚かされます。彼らの作品からは、知的な好奇心を大いに刺激されるのですよ。

まあ、そんなものは演じる側の勝手な都合であって、見る側からは何の関係もないのですが。でも、私自身がマジシャンの演技を見る時も、「思考の隙間」を上手くついてくれるようなマジックが好きですし、やたらテクニカルなものや、フラリッシュを全面に押し出したものは苦手だったりします。下手をしたら、テクニックばかり目についてしまって、何が起こっているのか分からなくなる事がありますので。まあ、結局大事なのは「バランス」ですよね。

では、トリック紹介の1回目。

■Untouched (Daryl)
現象/マジシャンが自由に選んだ1枚のカードを、観客が当てる。

実は現象説明はこれだけでは不十分なのですが、詳しく書くとネタばらしになってしまいますので、ご容赦を。私のお気に入りのトリックであり、演じた回数も数え切れません。

原理は、ちょっとでもマジックの心得がある人なら、誰でも知っているもので、初心者向けの一般書にも載ってる作品でも使われています。いわゆる「ダブルディールの原理」ですね。

マニアは目もくれないような作品であり、実際どこかのブログで見ましたが、「こんなのが受けるとはとても思えない」と書いてありました。気持ちは分かります。分かりますが、私はこれを演じて受けなかった事は一度もありません。数十人のイベント会場で、デック1つでこれを演じて、大喝采をもらった事もあります。

やはり、「観客が起こすミラクル」というのは、絶大な威力があるのです。マジシャンの力で不思議さをこれでもかと見せつければ見せつけるほど、観客が楽しんでくれればいいのですが(そして初心のうちは、「同じ起こすなら、不思議であれば不思議であるほどいい」と思いがちですが)、残念ながらそうではありません。人によっては、やり過ぎると、あからさまに敵意をあらわにする人すらいます。

なので、こういう「観客に花を持たせる」手順を、必ずいくつか持っている方がいいです。私はこの作品を、トリにすら演じる事もあります。「トリにこんなパワーの弱い作品を?」と思われる方もいるでしょうが、不思議のパワーなんて弱くて上等なんです。最後に観客に花を持たせ、みんなに穏やかな気持ちになってもらう方が、最後に強烈すぎる不思議をたたきつけて、観客の頭を「?」でいっぱいにするより、はるかにいいですから。

DVDだと、アマーの「Easy to master card miracles」の第4巻に入っています。あと、コロンビーニの「Impromptu card magic」のどれかにも入っていたはずです。私は、「できる!おどろく!新トランプ手品」という、子供向けっぽい一般書(星野徹義さんの本です)で知って、「これは絶対に受けるトリックだ」と確信して、すぐにレパートリーに入れました。

この本、「世界のマジシャンのトリック」と題して、著名マジシャンの作品をいくつか公開しててくれまして、「Untouched」はその一つですが(本でのタイトルは「あなたがマジシャン」)、他にもアマーの「Xeroxed deck」も入っていたりして、一般書と侮れない内容の本です(カードをコピーするのが大変そうですが……)。残念ながら、引っ越しの時にどこかにやってしまいましたが……。

考案したのが、とにかく「観客を楽しませる」実践派のダローという事からも、その効果は推して知るべし、です。これに近い手順、現象の作品は、かなり以前からあったようですが、「マジシャンが最初から最後まで一切手を触れない」という演出にしたところに、ダローの非凡さを感じますね。

ただ私は、それだとちょっとした危険を感じてしまうので(相手が上手くスプレッドできるとは限りませんし)、最初は自分でカードを選んでしまっています。それだと、トップのカードの組み合わせもコントロールできますし。「Untouched」ではなくなってしまっていますが、天国のダロー先生にはお許し願うとしましょう。

マジックに慣れてしまうと、作品を評価する時にともすれば「マジシャンとしての視点」しかなくなってしまい、「(マジックの知識が何もない)観客の視点」からの良作を見落としてしまう事が多くなります。加藤英夫さんも、レッドホットママ(シカゴオープナー)を初めて知った時、「つまらないトリックだ」と思ったそうですし、高木重朗さんも、カーライルの「ホーミングカード」を知った時、簡単すぎて失望したらしいですから、知識がある故の思い込みというのは、怖いものです(レッドホットママやホーミングカードが、どれほど強力な効果があるトリックかは、説明の必要もないでしょう)。

シンプルでほとんどマジシャンはやる事がないこの作品。ぜひ皆さんもレパートリーに入れてみてください。「マジシャンとしての視点」では絶対に見落とす作品ですが、「観客視点」からは、これほど受けて、しかも観客にストレスを与えない作品はありませんから。 

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Easy to master card miracles vol.2 (Michael Ammar)

マジック界には、FISMという大会があります。3年に1回開催される、マジックのオリンピックみたいなもので、色んなジャンルがあるのですが、そのクロースアップ部門の日本代表に選ばれた5人のうちの1人の人の名前を見て、「この名前見覚えがあるなあ」と思っていたら、私が以前所属していたマジックサークルのメンバーでした。確かに上手い子でしたが、まさかFISMの日本代表になるとは。

しかももう1人は、私がよくニコニコ生放送で見に行っていた人で(マジック生放送をしていた)、「その部分はこうした方がいいよ」などとアドバイスした事もあったのでした。世の中狭いものです(笑)。5人の皆さんのFISMでの健闘を祈ります。では、DVDレビューの2回目は、マイケル・アマーのEasy to master card miraclesの2巻目。

このシリーズは3巻で1セットみたいになっているので、レビューもvol.3まで書いたら一区切りという事にしましょう。さすがにこのシリーズを9回続けるのは大変ですから。

Easy to master card miracles vol.2

1. Twisting the aces (Dai Vernon)
現象/4枚のエースを裏向きに数える度に、違うエースが表になる。スペードのエースだけひっくり返らないので、魔法をかけるとスペードのエースもひっくり返る。

ダイ・ヴァーノンの名作。普通有名な作品には改案がたくさん作られるもので、この作品も例に漏れないのですが、改案の必要がないほど原作が完成されているので、改案は大抵「改悪」になってしまっています。

原案では、「スペードのエースがとても扱いづらいカードだと言うことは、あまり知られていません。それをお見せします」というしゃべりで始まるのですが、アマーは「普通の人はカードをこうやってひっくり返しますが、マジシャンはカードの中でひっくり返します」と言って始めています。

個人的には、ヴァーノンの原案通りの演出の方がいいなあと思うのですが、アマーの手順自体はほぼ原案通りで、さすがに綺麗です。ただし最初のカードの捌き方が、少々原案と異なります。原案のハンドリングだとカードの状態(今本当に4枚が裏向きなのか)が分かりにくい感じがするのですが、アマーのハンドリングだとその分かりにくさが軽減されている気がして、私はアマーの手順をとりたいです。

とにかく4枚のエースで演じるトリックとしては、次のラストトリックと並んで、歴史に残る名作です。

2. Daley's last trick (Dr. Jacob Daley)
現象/4枚のエースのうち、黒い2枚のエースを観客の掌の上に乗せる。「クラブは上でしたか、それとも下でしたか」ときくが、観客がどう答えても、黒い2枚のエースはマジシャンの手元にあり、観客の手元の2枚はハートとダイヤになっている。

これも歴史的名作です。なお、演じ方は本来のジェイコブ・デイリーのものとは違います。原案は、東京堂出版から出ている「奇術入門シリーズカードマジック」に、「エースの入れ替わり」として解説されています。原案はちょっと複雑なのですが、原案にも、これはこれで捨てがたい味があります。

前田友洋さんが「愛情とお金」という演出で有名にしましたが、この演出が合うかどうかは、マジシャンのキャラクター次第でしょう。私はああいう演出で演じようとは思いませんし、原案の演出をやはり大事にしたいところです。「どちらがクラブ(スペードでもいいんだけど)ですか」ときいて、どちらも赤いカードになっているというところに意外性があり、それがこのトリックを、シンプルながら強力なインパクトを持つものにしていると思うのです。

が、アマーの演じ方でちょっといただけないと思う点は、「先にマジシャンの手元のカードを表にしている」ところです。この作品は、「どっちがクラブでしたか」ときいて、相手の手元のカードが2枚とも赤いカードになっているからこそ、大きな驚きを生むのではないでしょうか。それを、マジシャンの手元のカードから示しているのでは、何ともそっけないマジックになる気がするのですが……。

アマーだけでなく、ダローやグレゴリー・ウィルソンのDVDでも、同じようにマジシャンの手元のカードから開いています。なぜなのでしょう。アマーもダローもウィルソンも、世界的なマジシャンですから、何か思うところがあるのでしょうか。私自身は、必ず観客の手元のカードから開きます。とにかく、シンプルながら意外性がある名作トリックです。

3. Card warp (Roy Walton)
現象/2枚のカードを、1枚は縦折、もう1枚は横折にして、横折のカードの下に縦折のカードを通す。縦折のカードを押し込むと、反対側から表裏反対になって出てくる。

文章では何とも現象の説明がしにくいのですが、見てみれば一目瞭然の、強烈な印象のあるトリックです。2枚のカードしか使わないトリックですが、私のお気に入りでもあり、財布にはこのトリック用に、必ず2枚のカードを入れています。演じると2枚のカードが駄目になってしまうので(最後で破いてしまいますからね)、使い古しのカードを使いますが。

書籍では「カードマジック入門事典」に載っていますが、文章では魅力を理解できず、演じてみようとは思いませんでした。自分の読解力のなさが恥ずかしい限りです。

最後はカバーのカードごと、真ん中から破ってしまうのですが、それが現象をさらに強力にするのに加えて、証拠隠滅の効果まであるという賢さ。これも改案が色々ありますが、観客から見た印象としては、原案と大して違うものではありません。とにかく、頭脳派クリエイター、ロイ・ウォルトンの面目躍如とも言える大傑作です。

4. Poker routine (Dai Vernon)
現象/ポーカーの話をしながら、5人分のポーカーハンドを配ると、マジシャンの元にだけ4枚のエースが配られる。もう一度やると言って、今度は4人のカードのうち不要なものを交換すると、次々にいい役ができているが、マジシャンの手元にはロイヤルストレートフラッシュが来ている。

ダイ・ヴァーノンによる作品。ストーリー仕立ての面白いポーカールーティンです。面白いんですが、セットがかなり面倒です。それとやはり、ギャンブラーのやり方としてボトムディールを見せるので、この部分は好き嫌いが分かれるでしょう。

アマーの演じ方は面白く、とても参考になりますが、自分で演じるのはちょっと難しい作品ですね。

5. Poker face (Al Baker)
現象/2人の相手にカードを選ばせる。マジシャンは、デックのコーナーをリフルしてインデックスを相手に見せながら、相手の目を見るだけで2人のカードを当ててしまう。

シンプルなカード当てですが、マジシャンはカードの表を一切見ないので、マジックの知識がある人が見ても不思議です。カードを1枚加工する必要がありますが、汎用性がある加工ですから、常にデックの中に1枚忍ばせておいてもいいかも知れません。

原理は単純ではありますが、その原理により相手のカードを選ばせて戻させる時も、そして相手のカードを当てる時もクリーンさが格段に増している、とても賢い方法です。さすが、アル・ベイカー。

6. Overkill (Harris / Ackerman / Emberg)
現象/相手にカードを1枚選ばせる。マジシャンはそれを当ててみせるが、それだけでなく、相手の選んだカードだけ裏の色が違い、さらにデックケースにそのカードの名前が書いてあり、加えて相手が最初にとったパケットのボトムカードも、選んだカードと同じになっている。

クロックプリンシプルと呼ばれる原理を利用した、セルフワーキングトリックの傑作です。要するに予言が3つ用意してあるだけなのですが、畳みかけるように予言を示す箇所が面白く、とても不思議に感じます。

アマーは、最初にカードを当てる時、「ウィスパラーズ」のように、カードの声を聴いて当てるという演出をしていますが、これは好き好きでしょう。

7. Card through handkerchief
現象/相手にカードを1枚選んでもらい、デックに戻してもらってから、デックをケースにしまい、さらにハンカチでくるむ。デックを包んだハンカチを振ると、選んだカードがハンカチをすり抜けて落ちてくる。

小道具を使ったカード当ての傑作です。考案者が記されていませんので、昔からあるやり方なのでしょうが、非常に優れた手順で、サロンでも演じられる優秀なトリックだと思います。アマーは最初のコントロールのやり方を解説しておらず、字幕で説明されていますが、これはご愛敬か。

Super practice sessionではハンカチのくるみ方を、透明なフィルムで見せてくれていますが、こういう親切さは嬉しいですね。

8. Card penetration and change
現象/相手にカードを1枚選んでもらい、デックに戻してもらってから、1枚のカードを示すが、それは相手の選んだカードではない。そのカードをハンカチにくるむと、そのカードがなぜか抜けてくる。ハンカチの中を開けると、相手のカードが現れる。

シンプルですが不思議。単純な原理でも、見せ方で面白くなるという好例ですね。マジシャンの嗜みとして、ハンカチは持っておいた方がいいかも、と思わされました。これも、解説では透明フィルムを使ってくれているので、とても分かりやすいです。

9. That's it (Eddie Fechter)
現象/相手に1枚のカードを選んでもらう。デックをカットして、1枚ずつカードを相手に見せ、相手にはその度に「それです」と言ってもらう。マジシャンは相手のカードを素通りし、別のカードを「これだと思います」と言うので、客は失敗したと思うが、表を見せると選んだカードに変化している。

サッカートリックのカード当てです。これもシンプルな原理ですが、効果は大きいですね。こういうトリックは、マニアになると軽視しがちですが、実はこういうトリックこそ、一般の方には効果絶大なのです。変に複雑すぎませんし。

こういう作品は、ただ淡々と手順をなぞっても面白くもなんともないため、「演じ方」が非常に問われますが、アマーの演じ方はとても参考になります。こういう感じのいい演じ方をするマジシャンって、少ないような気がします。

10.The Ambitious card
現象/1枚のカードをデックの中に入れるが、おまじないをかけると一番上に上がってくる。最後はカードを二つ折りにするが、それでも一瞬でトップに上がってくる。

私があまり好きではない(笑)アンビシャスカード。こってりしたルーティンも多いですが(「iCandy」のギャリー・ジョーンズのルーティンなんて、超こってり)、わりとあっさりしています。これくらいがちょうどいい長さかも知れません。

ラストは、ポップアップカードと呼ばれる、折り曲げたカードが上がってくる演出です。大変強力なインパクトがあり、私は以前これを見せ、その相手に後日会った時、「折り曲げたカードが上がって来たのが、今でも忘れられない」と言われた事があります。

一時期のマジックブームの時、テレビの影響か、猫も杓子もアンビシャスカードみたいな風潮がありましたが、アンビシャスカードは、下手な演じ方をすると観客に大変挑戦的な印象を与えますから(同じ現象を繰り返すから、当然です)、気を付けて演じたいトリックです(私は、「カードが何度も上に上がってくるマジックを見て、マジックが嫌いになった」という人を知っています。そういう演じ方をするマジシャンが多いという事です)。

相手がストレスを感じているのに気づかず、得意げに何度も「指を鳴らすとカードが一番上に上がってきます」とやる、空気が読めないマジシャンにはなりたくないものです。

Bonus effect / MacDonald's aces
現象/4枚のエースの上にそれぞれ3枚のカードを乗せていく。スペードのエースのパケットは、観客に押させさせ、残り3つのパケットにマジシャンがおまじないをかけると、エースは消え、観客が押さえていたパケットから4枚のエースが現れる。

エースアセンブリーの中でも、一番不思議と言われる名作です。一般的なエースアセンブリーでは、どこかのタイミングでAをすり替えるのですが、この手順の場合はエースは表向きに置かれ、消える直前までそこにある事は明らかなので、エースが次々消えていく様は大変不思議で効果的です。

その分ギミックを使うのですが、太っ腹なことにそのギミックがおまけでついてきます。単売されているほどのものなので、非常にお得です。ギミックのお陰で、ハンドリングにも無理がない上に難易度もそこまで高くありません。流石は大傑作です。知らない方は是非覚えましょう。


と、今回も名作ばかり11作解説されています。テクニックをほとんど使わない作品もありますが、アンビシャスカードとかツイスティングジエーセズのような、ちょっと歯ごたえがある作品も入っていますので、練習しがいもあると思います。アマーの演じ方も本当に参考になります。私は、最近のテンポばかり早いマジックにちょっと食傷気味なので、ゆったりとしたアマーの演じ方が心地いいです。

アマーのこのシリーズを持っていない方は、最初の3本だけでもいいので、是非入手してください。知っているはずのトリックでも、アマーの演技を見れば、きっと新しい発見がありますから。 

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マジックと動画

先日購入したDVD、ジョン・キャリーの「Eclectica」と、ジョー・リンドフライシュの「Extreme card magic」を一通り見終えました。どちらも満足いく内容で、いくつか練習してみたい手順も見つかりました。

リンドフライシュの方は、賢い手順もありますが(1巻の「Blacks to Jacks」と、2巻の「Divider card」が特に気に入りました)、無理してパス系のテクニックを使っている箇所がちょっと多いような……。そしてジョン・キャリーは、手順はいいんですが、観客役の女性の反応が薄すぎです(前作「Classic Carey」もそうでしたが)。

キャリーは、マジシャンが引っかかるような新しさではなく、一般の人に受けるような巧妙なサトルティや手順の工夫が売りです。ただでさえ、マジックの心得がある人には良さが伝わりにくいのに、観客役があんな無反応だと、「これ全然使えないトリックだな」と誤解されかねません。もったいない事です。

もちろん、芸能人みたいにわざとらしく大げさに反応するのも興ざめですが、RSVPにはぜひ善処をお願いしたいところです。

さて、今回はマジック雑記。「マジックと動画」についてです。最近は、Youtubeで上手い人や、上手いとは言えず「ただの種明かし」になってしまっている人まで、マジックの動画は探せばいくらでも出てきます。私自身は、動画でマジックを見たいとは思わないので、あまり見ませんけど。

ただ時々、「このトリックを動画にするのはどうなの?」と思えるようなものもあります。例えば、各種カウント技法をメインで使う(しかも表向きで)ものは、どう考えても「簡単に繰り返し見る事ができる」動画には、相性がよくないですよね。ダーウィン・オーティズの「ジャンピングジェミニ」なんて、とても動画にしようとは思いません(なのに動画で公開している人がいるという)。

また、ミスディレクションが物をいう作品も、動画とは極めて相性が悪いのは、当たり前の事です。他にも、「じっと見られると具合が悪い」技法。ザロウシャッフルとか各種フォールスディールとか。私は自分で動画を撮ってアップした事はありませんが、そういう訳でもし自分で動画を撮るなら、かなりトリックは選ばないと、と思います。

そもそもマジックって、動画とはすごく相性がよくないと思うのです。だって、サーストンの三原則の「繰り返し演じてはならない」を守りようがないじゃないですか(笑)。

それに、動画だとどうしても決められたアングル、決められた範囲をじっと見るだけですが、実際にはマジシャンはアングルはもちろん、相手の注意の方向や集中の範囲もコントロールする訳です。なので、動画って、マジックの一番大事な部分がすっぽり抜け落ちている感が、どうしてもぬぐえません。むしろ、クロースアップマジックよりはステージマジックの方が動画向きなのではないでしょうか。

また、「動画では凄く見えるけど、実際には……」というのも多いです。私はコインマジックが苦手ですが、動画に撮ってみたら、意外と不思議に見えました(笑)。コマ数が落ちますし、アングルも固定できますから、こんな楽な事はないですよね。だからこそ、「動画を見て買ったが、実際に手にしたら全然使えないマジック用具」なんてのも、よく出てくるのです(汗)。

もちろん、Youtubeに何をアップしようと自由ですし、動画をきっかけにマジックに興味を持つ人がいないとも限りませんから、それはそれで意義がある事なのかも知れませんが、私は動画ではマジックはほとんど楽しめないので、見ようとも撮ろうとも思いませんし、公開する方は、トリックを慎重に選んで欲しいなと思います。

それこそ、冒頭に述べたジョン・キャリーなど、動画では最も良さが抜け落ちるタイプの演技だと思うんですよね。だからこそ、観客の反応はちゃんとしておいて欲しいと思ったのです。

と、話題が最初に戻ったところで、今日の記事はこれまで。明日か明後日には、DVDレビューの2回目を書ければなと思っています。 

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