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24 seven vol.2 (John Carey)

今年も大晦日を迎えました。我が家は昨日掃除も済ませ、今日はのんびり過ごしています。今年はマジックのDVDは三本しか買っていませんが、まともに消化しようとすると、このくらいの本数でもちょうど良いのではないかと思えます。

以前は、年に二十本も三十本もDVDを買っていた頃もありますが、そんなに買っても身につかないですからね。本当に優れたDVDを、選んで買う方が絶対に良いと、今なら思います。そのDVDも、クラシックが一番良いです。

では、今年最後のDVD紹介。前回の記事で書いた、ジョン・キャリーの三本目です。このDVD、私が買った時は二巻で5,000円くらいだった記憶があるのですが、今は一巻だけで4,000円くらいするようです。

24 seven vol.2 (John Carey)

1. Color opener
現象/デックを表裏ばらばらに混ぜたのち、相手に一枚のカードを選ばせる。おまじないをかけるとデックの表裏が揃い、更に選んだカード以外の裏の色が変わってしまう。

トライアンフとカラーチェンジングデックを合わせたような作品。天海ターンノーバー(天海リヴォルブ)と呼ばれる技法を使っており、難しくありません。また、表裏混ざっているように見せる方法や、裏色をさり気なく確認する方法が巧妙で、大変説得力があります。カードを選ばせる時、一回目は間違って裏を見せるのですが、それが絶妙な検めになっています。

その分もちろんセットは必要ですが、オープナーに使う事と現象のインパクトを考えれば、十分ありな範囲のセットアップです。最後の証拠隠滅の方法もよく考えられていますね。使う技法の関係上、テーブルを必要としないので、使い勝手も良いのではないでしょうか。

2. S.W.I. interchange
現象/四枚のAと四枚のQを使う。演者の四カ所のポケットに四枚のQを入れ、相手の手の上に四枚のAを置く。そのうちの一枚を入れ替えると、全てが入れ替わり、ポケットの中からAが出て来て、相手の手の上のカードはQになっている。

ポケットインターチェンジです。パームも何も使わず、非常に楽な方法で実現しています。「Handle with Carey」の「WTF interchange」と同様の、ジョン・バノンの手法を使っています。あちらは三枚の選ばれたカードでしたが、こちらはA四枚とQ四枚が入れ替わるので、あちらより演じやすいかも知れません。

前半、四枚のAを混ぜて、一枚を指差させ、Aのマークを当てさせるのが、手順として伏線になっています。これも、広いスペースを必要としませんし、準備要らずで角度にも強く、非常に実践的なトリックですね。

3. It's all a mystery
現象/テーブルに一枚の赤裏のカードを出しておき、相手に一枚のカードを選ばせデックに戻す。赤裏のカードをデックに差し込み、その両側のカードを確認するが、相手のカードではない。差し込んだ赤裏のカードを確認すると、それが相手のカードである。

ミステリーカード、サインドカードの現象です。ラストは、エスティメイテッドトス風でもあります。個人的にこの手のトリックが、デックを演者が持ったままカードの表にサインさせるというのが、どうもしっくり来ないのですが、手順としてはとても良くできています。赤裏の一枚を使う事で、分かりやすさも増しています。

カードのスイッチのために、原案では独特の方法を使いますが、こちらでは赤裏のカードを二回デックに入れてもらう作業が必要です。その箇所には何らかの説得力のある理由づけをしたいところです。

4. Gemini production
現象/デックを二つに分け、演者と観客がそれぞれを持ち、よく混ぜる。よく混ぜたパケットの好きな場所に目印のカットカードを差し込む。カットカードを差し込んだ場所のカードを確認するとAであり、残りのパケットのボトムカードもAで、四枚のAが揃う。

タイトルからもお分かりの通り、ジェミニツインズの原理を使っていますが、前半はチャド・ロングの「シャッフリングレッスン」ですね。相手がよく混ぜたパケットで現象が起こりますから、とても強い印象を持つトリックです。セットアップがとても巧妙で、感心します。

「シャッフリングレッスン」だと、四枚のAと四枚のKが現れますが、こちらは四枚のAだけですから、その後に繋ぐトリック次第で使い分けても良いでしょうね。

5. Homing in
現象/よく混ぜたデックから、13枚のカードを渡してもらう。その中から一枚を覚えてもらう。演者は一枚のカードをポケットに入れるが、それが間違いなく相手のカードである。それをパケットに戻し、おまじないをかけると、選んだカードが再びポケットに移動する。

ウェイン・ドブソンの手順に影響されて作ったトリックのようです。ホーミングカードをパームなしで実現してしまっています。ライブでは、13枚のカードが数えるたびに枚数が変わる、というネタを入れていますが、これは好き好きでしょう。このカウント技法も、別トラックで解説してくれています。

ただ、原案と違い、カード当ての要素を入れているんですが、これはいかがなものでしょうか。この要素を入れたお陰でパームが要らないので、その意味では意義があるのですが、観客からみると、ちょっと現象が分かりにくくなっている気がするのですが。相手のカードをわざわざポケットに入れる必要性も希薄ですし。

個人的には、やはりパームを使ったカーライルの原案の方が魅力的な手順に見えますので、私が演じるなら原案なのですが、パームがどうしても苦手という人には良い手順だと思います。

6. Impulsive revelation
現象/観客に選んでももらったカードを、別の観客が当てる。

古典的原理のセルフワーキングトリックですが、観客がカードを当てるという演出のため、非常に一般受けするでしょう。フォースの箇所は多少相手の呼吸を読む必要はあるでしょうが、その後のマジシャンズチョイスを含め、巧妙です。このような「相手が現象を起こしてしまう」トリックは、何かと重宝しますから、覚えておいて損はありません。

7. 3 thoughts 3 located
現象/三人の相手に覚えてもらったカードを、次々に当ててみせる。

解説を見るまで、特殊な(込み入った)セットでも使うのかと思ったのですが、実は凄く簡単なセットで、しかも非常にありふれた原理を使っており、「え、そんな単純な原理だったの!?」と驚いてしまいました。その原理を利用するための下準備も巧妙で、解説で「してやられた感」を感じさせられました。

演技では簡単な質問をしているのですが、質問をしなくても当てる事ができます。しかし、あえて質問を入れる事で、私は却って効果が高まっているように思えます。

選ぶカードが三枚ですから、一人目のカードを見つける時に、次の相手のカードを知る事ができる訳で、演技ではそれを利用して相手にシャッフルさせた後で当てています。この事で原理の存在を見えなくしている辺りが、凄くうまいやり方です。演じ方次第では、一級のメンタルトリックになるでしょう。

もちろん、手順自体もよく出来ているので、カードを当てるなら誰にでも出来ますが、このトリックは、やはり演出をきちんと練り上げたいところです。色々考えられると思います。

8. When Nyquist met Lorayne
現象/デックを半分に分け、その中から一枚のカードを選ばせる。もう片方のパケットを表向きにスプレッドするが、相手のカードはもちろんない。ところが相手が指定した場所に、選んだカードが移動してくる。

これはかなり強烈です。表向きにスプレッドして、確かにカードが存在しない事を示しており、その上で相手が指定した場所にカードが裏向きに現れますから、観客に与える衝撃は大変大きいでしょう。技術的にも難しくありません。この方法は是非知っておくべきです。

フォースのやり方自体は「Impulsive revelation」と同じで、心理的なものです。ここは少し慣れが必要かも知れません。自信がなければ、フォースは省略して、相手のカードを現しても、十分効果があると思います。

9. Interlocking sandwich
現象/選んだカードを含むパケットを相手に持っておいてもらう。残り半分のパケットのうち二枚のカードを表向きにする。再びパケットをスプレッドすると、表向きにした二枚のカードの間に裏向きのカードが挟まれており、それが選んだカードである。

選んだカードによるカードアクロスです。vol.1の「Interlocking flyer」と同様の手法を使いますが、現象としてはこちらの方がパワフルで分かりやすいと思います。その分技法は増えていますが、さほど負担は大きくありません。単に移動させるより、二枚の表向きのカードの間に移動してくるという表現は、分かりやすいですし、相手の指定した場所という印象も与えられるので、良いアイディアですね、

10. An impossible conclusion
現象/パケットから一枚のカードを選んでもらう。演者は一枚の見えないカードをパケットから抜き出す。パケットを確認すると、相手のカードがない。演者は先ほどテーブルにおいた見えないカードの表を確認し、選ばれたカードの名前を言い当てる。さらに、その見えないカードを反対向きにしてパケットに戻すと、裏向きのカードが一枚ある。そのカードが確かに選ばれたカードである。

現象説明が少し複雑ですが、実際には全然複雑なトリックではありません。見えないカードが現れるという辺り、少しマーローの「デビリッシュミラクル」っぽいところもありますね。見えないカードというテーマなので、演者によって色々と面白い演出が考えられそうです。難しい技法を何も使わず、これほどインパクトのある現象を作ってしまうのが、キャリーの凄いところです。

選んだカードのロケーションは、「Impulsive revelation」と同じです。演技では最後は「Impossible」の綴りでカードを配って現していますが、ここは単にスプレッドして現しても十分でしょう。綴りで現す事にこだわらなければ、枚数も5枚である必要もありません。私自身は、各パケットを九枚ずつにしています。私が大変気に入っているトリックです。

11. Triple triumphant
現象/三人の相手にカードを覚えてもらい、デックを表裏ばらばらに混ぜる。一人目、二人目のカードを当て、二人目のカードでデックにおまじないをかけてもらうと、デックは全て裏向きになり、二人目のカードが三人目のカードに変化する。

トライアンフのバリエーションであり、これもやはり天海リヴォルブを使います。ただ、現象をちょっと盛り込み過ぎのような気がしなくもありません。表裏混ぜる必然性も、あまり感じられないんですよね。三人の相手にカードを選ばせる時点で、演じる機会が限られそうな気もしますが、ある程度マジックを見慣れた人には、効果的なトリックかも知れません。

12. On the count of
現象/ボトムに選ばれたカードを置くが、それが消えてしまい、相手の指定した枚数目から表向きに現れる。

現象はシンプルですが、非常に上手い手順です。キャリーにしては珍しく、ターンノーバーパスという少々「重い」技法を使いますが、デックをひっくり返す理由付けがはっきりしているので、恐れることはありません。

最初の消失のプロセスで、次の出現の準備が自動的に終わってしまっているのが、実に賢いです。キャリーは、こういう「相手の指定した枚数目から選んだカードが現れる」というトリックが気に入っているようですね。


以上たっぷり12手順です。相手にカードを操作させる手順も多いので、技巧派の人は物足りないかも知れませんが、どれも実践で磨かれた手順ばかりで、動画用ではなく、人前で演じるためのレパートリーが欲しい人には、間違いなく即戦力になるDVDである事は保証します。

と言う訳で、今年最後の更新でした。三が日の間に、レビューをまた書きたいなと思っています。皆様、どうぞ良いお年をお迎えください。 

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ジョン・キャリーの魅力

今日で仕事納めでした。無事に終わって一安心です。年末年始はゆっくり過ごす予定です。

さて、私が気に入っているマジシャンに、ジョン・キャリーがいます。彼は、プロのパフォーマーではありますが、タマリッツとかダロー、トミー・ワンダーのような派手さは全然ありません。

しかし、マジシャンの全員が全員タマリッツみたいな演技をする必要もない訳で。実際、レストランのテーブルホッピングでタマリッツのような演技をされたら、客は大迷惑でしょう(笑)。渋い、いぶし銀のような演技をするマジシャンには、それはそれで輝ける場所があるのです。キャリーは、そんなマジシャンの一人です。

彼はDVDも結構出していて、私はほとんど全部所有しています。今度新作も出たようなので、是非入手したいなと思っています。彼のDVDに収められている手順は、彼のオリジナルではあるんですが、完全なオリジナルではなく、クラシックを上手い事焼きなおした手順がほとんどです。

その焼きなおし方が秀逸なのです。とにかく、可能な限り難しい技法は省くというのは、コロンビーニとかキャメロン・フランシス辺りにも通じるものがあるのですが、キャリーの凄い点は、技法以外にも、「手の抜き方」(というと言葉が悪いですが)が上手いところにあります。

恐らく、レストランやバーなどでの長年の演技の経験に裏打ちされたものでしょう。「ここは観客の注意が緩むから、わざわざ難しい方法を使わず、堂々と変な方法をやっても大丈夫」というのを見切る、その眼力がただものではないのです。マジック用語でいう、サトルティの利用方法が、天才的です。

例えば、「24 seven vol.1」に収められている、「Coinkidinky」。これの一枚目のフォースの仕方など、あまりの大胆さに言葉を失いました。恐らく、書籍でこの手順を読んだとしたら、「こんなやり方、通用するはずがない!」と捨ててしまうようなトリックです。

しかし、DVD内でキャリーはちゃんと受けを取っていますし、実際に人前でやってみると、立派に通用するのです。ちなみに私もDVDを初めて見た時は、見事に引っ掛かりました(笑)。氏は経験から、こんな大胆なやり方でも通用する事を、肌で知っているというのは、凄い事です。

また、「Eclectica」に収められている「Assisted ambitious」。これの冒頭のカードのすり替え方も、とんでもなく大胆です。相手にじっと見られていたら、絶対に通用しません。が、手順の流れで手元に注目が来るはずがないという構成になっているため、立派に通用します。

具体的には、三枚の関係のないカードを、三枚のAにスイッチするのですが、恐らく技巧派の人であれば、ああいう大胆な手法ではなく、もっと「手元を見られていても大丈夫」な手法をとるはずです。例えば、ヴァーノンのストリップアウトアディションから裏返してトップに置いて三枚取る、などなど……。

でも、その瞬間は相手は自分のカードを確認しているのです。相手は、演者が何となくデックを置いて、パケットを持ち換えたな、くらいの記憶しか残りません。それで十分なのです。相手の注意力が緩む時間や、相手の集中しているフレームの外で、楽に仕事をこなす。これを見切る能力が、ジョン・キャリーの真骨頂です。

これはなかなか文章では伝わらないポイントです。今でも、マジックは動画だけで覚えるのではなく、文章も活用すべきだと思っていますが、彼のトリックの魅力は、文章だけではなかなか伝わらないと思います。あの高木重朗さんですら、カーライルの「ホーミングカード」の解説を入手して初めて読んだ時、つまらないトリックだと思って放置したそうですから(その後実演を見て、このトリックの素晴らしさに開眼したそうです)、文章だけでは伝わらないものというのは、やはりあるのでしょう。

また、キャリーの技法には「技法感」がないのがいいですね。全くの自然体で、スプレッドカルなど、注意して見ていないと全然分かりません。

と褒めはしましたが、最近の彼のDVDにはちょっと不満もあります。まず、観客役の反応がなさすぎで、見ていて困ってしまいます。L&Lの観客ほどとは言いませんが、もっとちゃんと反応してくれる観客を選ばないと、トリックの魅力が伝わってきません。

彼のトリックは、解説だけ見てもあまり真価が分からないものが多く、ライブでこそ価値が分かるものが多いと思うのですが、新しい方のDVDでは、とにかく観客の反応がなく、「これ本当に受けるの?」と思ってしまうものも多数です(実際に人前で演じると、ちゃんと受けるのですが)。

キャリーのDVDはずっとRSVP magicから出ているのですが、どうも最近のRSVPは作りが適当なような気が……。せっかくのキャリーの魅力が伝わってきません。RSVPから出た、キャリーの一番新しいDVD「Eclectica」なんて、スポンジボールのトリックを、実演せずに解説だけしている始末。スポンジボールこそ、実演を人前で見せているところを収録してもらわないと……。

幸い(?)、その後Big blind mediaからセルフワーキングトリックに焦点を当てたDVDを出し(これはまだ買っていません)、今度はAlakazam magicから二枚組の新作が出たようです。プロモーション動画を見ると、ちゃんと観客の反応もあるようなので、是非入手してみたいなと思っています。

ジョン・キャリーの魅力に触れてみたい人は、デビュー作である「Handle with Carey」と、その次の「24 seven」(二本組)を是非ご覧ください。この三本だけでも、サトルティを上手く活用し、分かりやすく強力な現象を楽に起こす、ジョン・キャリーの才能の一端に触れる事ができるはずですから。 

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Expert coin magic made easy vol.1 日本語字幕版(David Roth)

今日はクリスマスイブ。我が家では、絵を描くのが好きな妻に、ドイツの「ファーバーカステル・ポリクロモス」という、高級色鉛筆を買ってあげました。私もちょっと使わせてもらったのですが、そこらへんの文房具屋で売っている安いものとは、全くの別物ですね。妻がこれで楽しく絵を描いてくれるといいなと思っています。

私は何もなしでいいやと思っていたら、妻から「せっかくだから、新しいMacを買って、また作曲や編曲でもやってみたら」と言われました。今でこそ妻のWindows PCを借りて使っていますが、私はずっとMac使いだったのです。

2年前に故障して以来、ずっとそのままだったのですが、今回は妻の言葉に甘えて、久々にMacを買い、趣味である作曲や編曲を再開してみたいなと思っています。

では今回のDVD。コインマジックをやる人は全員持っていると言われるほどの、デビッド・ロスの名シリーズです。最近は曲芸みたいなコインマジックが大流行ですが、私はロスのこのシリーズさえきちんとマスターできれば、変なコインマジックのDVDは不要とすら思っています。

日本語字幕版は、細かいアドバイスも理解できていいと言えばいいのですが、ものがコインマジックですから、字幕なしのものでも十分だと思います。それでは行きましょう。

Expert coin magic made easy vol.1 日本語字幕版 (David Roth)

1. コインの出現と消失 (Production, vanish, and reproduction of a coin)
現象/空の手を握っておまじないをかけるとコインが出現し、もう一度おまじないをかけるとコインが消える。もう一度おまじないをかけると、再びコインが現れる。

ロン・マスケーロードとクラシックパームを使った、コインの出現と消失です。私が「何かマジック見せて」と言われる時に、好んで演じるお気に入りの手順でもあります。シンプルで基本的な演技ですが、ロスの演技はとにかく美しい。本当の魔法に見えます。最も基本の、フィンガーパームバニッシュですら、そこら辺の単なる腕自慢の曲芸とは、全く質が違います。

また、ロン・マスケーロードではなくヴァーノンロードを使った別法も解説してくれています。パームの方法が変わってきますし、得意不得意もあるでしょうから、お好みの方を採用してみるといいでしょう。

2. ウイングドシルバー (Winged silver)
現象/右手に握った四枚のコインが、一枚ずつ左手に移動する。

ロスを代表する傑作、ウイングドシルバー。初めて見た時は、そのあまりの鮮やかさ、美しさに息を飲んだものです。その土台を支えている技法が、ロスの考案したシャトルパスです。シャトルパスは、是非ともロスの解説で覚えましょう。シャトルパスはコインの基本技法ですから、あちこちで解説されていますが、やはり本物は全然違います。滑らかさ、美しさが段違いです。滑らかで美しいですから、見ていても疲れません。これは大事です。

コインズアクロスも、流行のスリーフライを始めとして、不可能性やビジュアル性の限界に挑戦するような手順も色々発表されていますが、私は数枚を使ったコインズアクロスは、ウイングドシルバーと、あとはフライングイーグルス、ハンピンチェンを使った手順くらいしか演じません(そんなに綺麗には演じられませんが)。結局はただコインが移動しているだけですからね。ウイングドシルバーをちゃんと演じられれば、特に一般の方相手であれば十分ですし、これ以上のものは要らないと思っています。

何よりロスのウイングドシルバーを見ると、コインマジックはシンプルで淡々と演じるくらいが、実は一番いいような気もしてきます。四枚のコインが単に移動するだけのシンプルさが、何と美しい事か。「繰り返しだから落ちが弱い」という人もいますし、その指摘は当たっているとも言えますが、反面「予定調和の気持ちいい美しさ」があります。ロスの演技を見ると、ウイングドシルバーのラストで、コインが全部戻ってくるなんていう、観客の裏をかいた現象は、蛇足以外の何物でもないとすら思えてくるのです。

3. カッパー&シルバー (Copper and silver)
現象/両手に握った銀貨と銅貨が入れ替わる。

ボボスイッチを使った、最も基本的なカッパーアンドシルバーです。十分不思議に見えます。コインはカードに比べても圧倒的に現象が少ないですから、カッパーアンドシルバーも、星の数ほど色々な手順が発表されていますが、観客から見たらどれも現象は同じなんですよね。いたずらに新しい手順を追い求めるより、こういう基本的な手順を、流れるように演じられるようにしたいものです。

ここで解説してくれているコインのスイッチ方法は、大変応用性が広いものです。最後のエキストラコインの処理方法の解説とアドバイスも、実践的ですね。

4. コインチェンジ (Coin change)
現象/コインを握りこんでおまじないをかけると、小さくなってしまう。

基本技法を使ったコインチェンジです。クラシックパームバニッシュって、自然に上手く行うのは難しいものですが、ロスは本当に渡したようにしか見えません。手の形がどうとか、それだけの問題ではなさそうです。

それは、ロスのフェイクトランスファーは、手にコインを握っている時の「緊張感」までもが、きちんと移動したように見えるからではないかと思っています。それが最も顕著に表れているのが、やはりシャトルパスではないかと思うのです。そこを見逃して、単にやり方だけ真似たのでは、なかなか上手くはいかないでしょう。

一瞬で終わるような演技ですし、解説も短くシンプルですが、ロスはその流れるような美しい演技が、最も素晴らしい解説であり教科書ですね。

5. チンカチンク (Chink-a-chink)
現象/テーブルに並べた四枚のコインが、その上に手をかざすだけで次々移動し、最終的に一か所に四枚のコインが集まる。

チンカチンクも色々な手順があり、ラストに元に戻るような派手な現象もありますが、最も基本のエキストラコインを使う手順が解説されています。「手順が巧妙なら難しい技術はいらない」という、ロスの言葉が深いですね。ロスほどの名人が言うと、説得力があります。

ロスの言葉通り、大変巧妙な手順で、初めてこの手順を知った時は、コインマジックの奥の深さに触れた気がして、大変感動しました。パームもほとんど必要ありません。また、手順だけでなく、体や手の使い方のアドバイスも、非常に勉強になります。一通り手順を解説してくれた後は、スローモーションで手順を見せてくれます。

チンカチンクは少し複雑な手順のトリックですから、これは嬉しい配慮です。結構古いビデオなのですが、マジックレクチャービデオとしては、今の最新のDVDより、この頃のビデオの方が実はよくできている気がしてなりません。

ロスが解説で言っている通り、一時間も練習すれば演じられるようになるでしょうが、このような(技術的には)易しい作品を、決して甘く見ないようにしましょう。下手にマッスルパスを使う難しい作品よりも、上手に演じれば、これほどの奇蹟はありませんから。


と、マジックとして解説されているのはわずか五作品ですが、一番基本のフィンガーパームからラムゼイサトルティ、カップスサトルティからリテンションバニッシュまで、基本技法が色々と解説されています。

リテンションバニッシュも、シャトルパス同様、ロスの解説で覚える事をお勧めします。今ではもっと進化した方法もあるのでしょうが、私はロスの方法が最も自然で、最も美しく、これをきちんと覚えれば他はいらないとすら思います(まあ、私は全然その域には達していないのですが)。

コインをちゃんと覚えたいのなら、変な癖をつける前に、まずロスのこのDVDです。絶対の自信を持ってお勧めします。 

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「今なら変えてもいいですよ」

今でも、毎月毎月様々なマジック道具やトリックデック、マジックDVDが出ますが、是非見てみたいと思えるものがほとんどありません。そういう変な「最新DVD」を見るくらいなら、古典に当たった方がよっぽどいいのではないか、とはいつも書いていますが、この頃は更にその思いが強くなりました。

堂々と「動画向けのトリック」なんて書いているものもあります。しかし、動画でマジックを見せる意義が、私にはさっぱり分かりません。ショップのプロモーション用か、あるいは自分の演技を自分だけで見て、駄目なところを確認する作業なら使えるでしょうけど、マジックはやはり、人前で演じないなら、意味がない娯楽だと思うのですよ。

さて、相手にカードを一枚選ばせるトリックで、例えばテーブルに一枚ずつカードを置くのでもいいですし、デックをリフルしてストップをかけさせるのでもいいんですが、その時「もう一枚置いてもいいですよ。あるいは一枚戻してもいいですよ」とか、「もう少し弾きましょうか?」なんて言ったりしていませんか?

言う側からすれば、「自由に選んでもらっている」というのを印象付けたいのかも知れませんが、私はこれ、効果的だとは思えないのです。

何故なら、勘の鋭い(というか、普通の大人としての知性を持ち合わせた)人なら、「なるほど、自由に選ばせているように見えるけど、どれを選んでも(または、どこでストップをかけても)同じなんだな」と薄々勘づくでしょうから(私の妻がそうです)。そしてその直感こそ、「そのものずばり」ですからね。

全てのトリックでそのようにできるのなら構いません。しかし、例えばクラシックフォースを使う場合はどうでしょう。「本当にこのカードでいいですか? 今なら変えてもいいですよ」なんて、絶対に言えませんよね。選びなおされたら、トリックが成立しませんから。

では、クラシックフォースは「今なら変えてもいいですよ」と言えないがために、フォースとしての説得力が弱いでしょうか。もちろん、そんなはずはありません。ちゃんと決める事ができれば、クラシックフォースは大変効果的なフォースです。クラシックフォースで「自由に選んだ」という印象を持たない人は、まずいないでしょう。

無論、どの技法を選ぶべきかは、手順と密接に関係しますから、手順によってはクラシックフォースよりもリフルフォースやクロスカットフォースがより適している場合というのも、多数存在するのは言うまでもありません(まあ私もクラシックフォースなんてそんなに使いませんが。確実じゃないですし)。

対して普通のフォースでは、どこでストップされても、どのカードに触られても大丈夫です。なので、ついある意味での「うしろめたさ」から、「今なら変えてもいいですよ」と言ってしまう……。しかし、これは「自由に選んだ」という印象を強めるよりも、むしろ「どれ選んでも一緒なんだ」という印象を与える危険が高い場合があると思います。この「演者にしか分からないうしろめたさ」から、しなくてもいい検め、する必要のない自由度を相手に与えるというのは、マイナスの側面が大きいように感じるのです。

なので、私はいつの頃からか、そのような台詞は言わなくなってしまいました。フォースにおいては、最初の一回で本当に自由に選んでもらえれば、それで十分です。選びなおさせたからと言って、効果が高まったりはしません(高まる場合もあるでしょうが、慎重な配慮が必要だと思います)。

同じような事は、「カードを切ってもいいですよ」という台詞にも当てはまるでしょう。これを言える状況というのは、要するに「カードを混ぜられてもトリックには影響がない場合」です。ですから、これも気を付けないと「混ぜても一緒なのか」という印象を与えかねません。実際「切ってもいいですよ」とマジシャンが言うのは、切っても切らなくても問題がない場合ですからね。

フォースの場合と同じように、あらゆる状況で混ぜさせられるなら、それでもいいかも知れません(私はそんな事はしたくはありませんが)。しかし、混ぜられては困る場合というのが存在する訳で、いつも「切ってもいいですよ」と言っていたら、デックをフルスタックする手順の時、「切らせろ」と言われて、言葉に窮してしまいかねません。

フォースの場合と同様、相手にデックをシャッフルさせたところで、効果が高まるとは私はあまり思えません(フォースの場合同様、高まる場合もあるでしょうけど)。フェアさを印象付ける為に、なんでもかんでもやるというのは、危険だと思います。「追われずして逃げるなかれ」です。検めや自由な選択は、最小限でいいというのが、今の私の考えです。 

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Visitor (Larry Jennings)

今年の冬は全国的に寒いようですが、皆様はいかがお過ごしでしょうか。私は明日、所用で岡山まで行ってきます。東日本の方ですと、山口と岡山って同じ中国地方だから近いと思われる事もあるようですが、高速道路を使うと、優に三時間以上かかります。昔は、山陽本線の始発が、下関発岡山行だったんですが、所要時間は六時間でした。つまり物凄く遠いという事です(笑)。

もちろん、高速道路ではなく新幹線で行きます。新幹線のぞみ号だと、新山口から岡山まで一時間十五分ですから、これくらいなら負担になりません。帰宅は夜七時を過ぎる予定です。なので、明日はDVDレビューはありません。

では、今回のトリック紹介。私が大好きなラリー・ジェニングスの「ヴィジター」です。ですが私はこの作品を原案通り演じる事は、決してありません。

■Visitor (Larry Jennings)
現象/二枚の黒いQの間に、選んだカードを挟み、デックの半分くらいのパケットの中に混ぜ込むが、二枚の赤いクイーンの間に一瞬で移動してくる。と思ったら移動してきたカードはすぐに消え、元通り黒いQの間に戻ってくる。

傑作です。加藤英夫さんはジェニングスに初めて見せられた時、「頭をがつんと殴られるほどの衝撃を受けた」そうです。このトリックが傑作である所以は、パームなどの難しいテクニックを使わず、二度も移動現象を実現しているところにあります。

が、そのためにパケットをあっちこっちと持ち帰る印象が強く、このトリックを「傑作だとは思うが、自分では演じない」という方もいるようです。カズ・カタヤマさんもそうだったようですね。

カタヤマさんは、パケットの扱いの煩雑さを解消しようと、パスやらサイドスティールやらを使った手順にしようとしたそうなのですが、そうすると原案の良さ(難しいテクニックを使わずに移動現象を実現している点)を、完全に壊してしまう事になり、結果ヴィジターを演じる事はなかったそうです。

その欠点を解消したのが、ゆうきともさんの改案「最後の訪問者」です。DVD「トランプの友 知の壱」か、書籍「ゆうきとものクロースアップマジック」に収められています。前者はダブルカットで行っているところを、後者ではブラフパスを使っているという違いがありますが、ほぼ同じです。

ゆうきともさんの手順でも、パケットの持ち換えは行われていますが、わずかの工夫でそれが気にならないように構成されているのです。具体的な違いは、カードの選ばせ方、シークレットアディションの枚数の違い、そしてパケットの取り扱いです。

シークレットアディションについて、ジェニングスの原案では一枚を加えますが、ゆうきさんの改案だと二枚を加えています。これにより、些細な事ですが説得力が増しています。

そして何より、パケットの取り扱いが一番大きな(でも変更点としてはわずかな)違いです。原案では、カードを最初に選ばせる時、ドリブルを使い、二つに分けられたパケットは、左右に分けて裏向きに置きます。選ばれたカードを挟んだ二枚の黒いQ(と思われているパケット)を、一度右側のパケットの上に右手で乗せ、それを左手で取り、ダブルカット。それを一度右側に戻し、今度は左側のパケットを左手でとり、赤いQを……と、こういう流れです。

対して改案では、最初にカードを選ばせる時は二つのパケットに分けず、デックを丸ごとそのまま「表向きに」して置いておきます。表向きのデックの半分を左手で取り、それを裏向きに返して選んだカードを挟んだ二枚の黒いQ(とされているパケット)を乗せ、ダブルカット。それを右側に置き、表向きの残り半分を左手に取り、赤いQを……となります。

わずかの違いのようですが、動画で見れば大変印象が違います。ゆうきさんの改案でもパケットの持ち換えは行っているのですが、それが気になりません。ちょっと暴言に近いですが、未完成だったヴィジターという作品を、ゆうきさんのちょっとした工夫が完成に導いたと言っても、過言ではないと思います。それくらい印象が違います。

私自身、ジェニングスの原案(入門事典の手順)を知った時、「素晴らしい手順と現象だけど、ちょっとな……」と感じていました。その違和感、煩雑さが、ゆうきさんの改案では非常に上手く解消されている事に感動し、私はヴィジターはゆうきさんの改案しか演じません。そして、ゆうきさんの「最後の訪問者」は、いつでも演じるお気に入りのレパートリーになっています。

何故、ゆうきさんの手順ではパケットの持ち換えが気にならないのでしょうか。いくつか原因があると思いますが、一つ目はシークレットアディションのやり方だと思います。

原案では、二枚の黒いQをパケットに重ね、シークレットアディションをしてから、選ばれたカードを裏向きに挟んでいます。それに対し、改案では二枚の黒いQの間に選ばれたカードを「表向きに」挟み、それを裏返すという動作の中でシークレットアディションをしています。つまり、「シークレットアディションしてからターゲットカードを裏向きに挟む」のか、「ターゲットカードを先に表向きに挟み、それを裏返す動作の中でシークレットアディションする」のかの違いです。

シークレットアディションは、何か理由付けがないと怪しく見えるものです。それを、「選ばれたカードを、分かりやすく裏向きに示す」という動作に紛れ込ませたところに、ゆうきさんの非凡さがあります。

二つ目は、最初にパケットを左右二つに分けない事です。原案は、パケットを二つに分けるため、右側のパケットをとって作業をし、それを右側に戻してから、左側のパケットを……となります。これでは、パケットをやたら持ち替える印象になっても、致し方のないところです。

対して改案では、二つに分けないため、それをまず「半分分ける」という理由付けで手に取り、作業の後右側に置きます。そして残ったパケットを……となっています。「分けるために手に取る」という作業が入る事で、持ち替えがあまり印象に残らないのすね。原案の「右側に置いてあったのを取って、作業して、また右側に戻す」という手順が、「半分取って、作業して、右に置く」に変えられていますが、これだけで、持ち替えている印象がかなり軽減されています。

もう一つは、デックを「表向きに」置いておくという点にあると思われます。

原案のように、二つに分けたパケットを裏向きに置いておくと、何の理由もなく、なんとなくパケットを持ち換えているように見えてしまいます(実際にはちゃんと作業をしてはいるんですが)。

ところが、ゆうきさんの改案のように、デックをそのまま表向きに置くと、まず上に書いたように「デックを分ける」ために手に取る理由付けができるのに加えて、手に取ったパケットをひっくり返すという作業が入るため、持ち替える作業にも理由ができます。この「些細な一仕事」が入るため、パケットの持ち替えが観客の印象に残らなくなっているのです(動作には、必ず一仕事を入れて理由を持たせるというのは、ゆうきさんのマジシャンズチョイスに対する考察でも見られるポイントです)。

デックを表向きに丸ごと置くからこそ、そこから二つに分けるという動作が生まれ、ひっくり返すという一仕事が生まれ、結果パケットの持ち替えが印象に残らないのです。偉大な改良だと思います。

ヴィジターという作品がお好きだという方は、是非ゆうきともさんの改案に触れてみてください。ゆうきともさんの視点の鋭さ、改案センスの凄さに感動させられるはずです。

もし、ゆうきさんの改案に触れて、「同じじゃん。どこが違うの?」としか思えなかったら、その方は今日限りマジックはやめ(いつもの表現なので、以下省略(笑))。 

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Easy to master card miracles vol.5 (Michael Ammar)

今年も残すところあと三週間。来週の日曜日は、所用で岡山まで行きますので、このブログの更新はありません。朝六時ごろに家を出て、新山口駅まで行き、そこから新幹線に乗るのです。帰るのは、多分夜七時を回るでしょうから、それからブログを書く気力は、多分なさそうです。

下関から岡山は、高速道路だと三時間以上かかりますが、のぞみ号に乗れば一時間十五分ですから、あっという間です。十一月は札幌に二回行ったのですが、札幌までは飛行機を使って、家を出てから着くまで五時間以上かかりますからね。それに比べれば、岡山なんて近い近い(笑)。

では、今週のDVD紹介。アマーのEasy to master card miraclesの五回目です。相変わらず、トリックの選択が素晴らしく、現象も変化に富んでおり、どれを身に着けても間違いありません。パッケージ写真のアマーの満面の笑みが素敵です(笑)。

Easy to master card miracles vol.5 (Michael Ammar)

1. Virginia city shuffle (Martin Lewis / Louis Falanga / John Luka)
現象/一枚のエースと三枚のブランクカードを使い、エースの行方を当てさせる。テーブルにブランクカードを置いておくが、手元のカードが全部ブランクになっており、テーブルによけておいたカードがエースに変化している。それをもう一度繰り返し、最後には、テーブルに置いておいたカードはブランクのままで、手元のカードが三枚ともエースになっている。

モンテ系トリックの傑作です。サイドウォークシャッフルのバリエーションと言えます。実際現象はほとんど同じなのですが、あちらと違うのは、カードに仕掛けがない事です。最後全部手渡しできます。もちろん技法は使いますが、さほど難しくはありません。何より、最初のブランクカードの示し方は、初めて知った時はその巧妙さに感心しました。

普通、ギミックを使用するトリックを、ギミックを使用せずに実現しようとすると、どこかに無理が生じてくるものですが、この作品の場合は、それが上手く帳消しにされています。サイドウォークシャッフルは、ギミックを使うが故の制限、扱いづらさというのもありますからね。その意味で、サイドウォークシャッフルはもちろん傑作ですが、これはこれで非常に意義のある改案だと思います(フレッド・カップスが演じていたように、ブランクカードに印をつけようと思ったら、また別のお話ですが)。

以前にも書いた通り、こういうトリックは見せ方が難しいですから、安直に「観客を負けさせて、マジシャンの不思議な力を誇示する」ような見せ方は、やめておいた方が無難です。それはともかく、手軽でパワフルなトリックですし、ギミックを使いませんから、この四枚をいつもパケットケースに入れておきたくなります。

2. Another quick coincidence (Allan Ackerman)
現象/演者は一枚のカードを置いておく。観客にも一枚のカードを選ばせ、それをデックの好きな位置に差し込ませる。演者のカード、観客のカードは共にエースであり、更に観客が差し込んだ位置の両側のカードもエースで、四枚のエースが揃う。

手軽に演じられるフォーエースのプロダクションです。セットも簡単ですし、技法もほとんど使いませんので、即戦力になります。ビル・サイモンのプロフェシームーブを使うのですが、この技法は、簡単なのに非常に強い錯覚を生みます。冷静に考えれば、非常に大胆な事をしているのですが、「相手のカードを表にする」という目的があるため、堂々とカットしても、それが相手の目に留まらないのです。心理的な盲点をついた、非常に「マジックらしい」動作と言えましょう。

3. Henry Christ's fabulous four ace trick (Henry Christ)
現象/デックに混ぜ込んだ四枚のエースが、色々な方法で現れる。

これも難しい技法を使わずにできる、四枚のエースのトリックです。最初の四枚のエースの配置方法が大事なのですが、解説で四枚のエースだけ違う裏色のカードを使ってくれているため、とても分かりやすいでしょう。一枚エースを出す度に、次の準備までしてしまう、賢い手順です。

三枚目だけは、スペルを使って出し、四枚目はラズルダズルカットを使って出します。解説では、スリップカットを使う方法も説明していますが、ラズルダズルカットは、易しくできて非常に派手に見えますから、知らない方はこの機会に、是非身に着けるといいと思います。

4. Cards into card box (Mark Lefler)
現象/デックをシャッフルし、広げて相手に一枚とってもらおうとするが、「ごめんなさい、カードを出すのを忘れていました」と言うと、デックのはずがカードケースになってしまっており、改めてデックを箱から取り出す。

瞬間芸のようなトリックですが、アマーの見せ方は実に見事です。最初ぼーっと見ていたら、見事にひっかかってしまいました(笑)。これと同じような現象を実現するためのギミックもありますが、こちらは何の仕掛けもいりません。その分、見せ方は難しいと思います(角度とか、手の形とか)。アマーの見せ方をお手本にしましょう。

5. The gun trick (Ken Krenzel)
現象/あらかじめスペードのエースを出しておく。一枚のカードを選んでもらい、デックを拳銃の形に噛み合わせる。スペードのエースを弾丸に見立て、デックの拳銃に押し込むと、相手のカードが飛び出してくる。

動きのあるカード当てです。カードマジック入門事典に掲載されており、「このトリック一つで本書の値段に匹敵する」とまで書かれている、優れたトリックです。アマーの演じ方は、入門事典のやり方とは少々異なりまして、私はアマーのやり方の方が優れていると思います。

このような、ちょっと派手なカード当ては、身に着けておくと演技のアクセントとしてとてもいいと思います。カード当てが嫌いで、今風のビジュアルなトリックが好きな人も多いようですが、何せ、一般の人が想像するカードマジックと言えば、やはりカード当てなのです。「選ばれたカードの現し方」というのは、色々知っていれば、それだけでも見る側に違う印象を与えられますよ。

6. Card on ceiling (Michael Ammar)
現象/一枚カードを選ばせ、デックに戻させてから、デックに輪ゴムをかける。その状態でデックを天井に投げると、相手のカードだけが一枚貼りついている。

古典トリックであり、アマーの得意技です。アマーと言えば、トピットかカードオンシーリングという印象。Gun trickよりも更に強烈な印象を与えられるでしょう。天井に貼りついたカードを、後でちゃんと取り除けるような場所でないと、トラブルの元になるのは言うまでもありません(笑)。

もちろん、道具が必要なのですが、アマーはセットの仕方も分かりやすく説明してくれています。トリックの構造としては単純なのですが、アマーのよく考えられた手順は、一見の価値があります。ちょっとしたサロンでこれを演じれば、デック一つで、後々まで語り草になる演技になる事は間違いありません。

7. Torn and restored card (J.C.Wagner)
現象/選ばれたカードを四つに破る。その破片の一つを観客に持っておいてもらい、残り三つを演者が持つが、おまじないをかけると、三つの破片はくっつき、観客が持っている残り一つともぴったり一致する。

比較的易しくできる、破ったカードの復活です。ちょっとした準備は必要ですが、そのお陰もあって、「確かに四つに破った」という、見た目の説得力も高いと思います。この部分のハンドリングは、実によく考えられています。

カードが全部元に戻らないのは残念ですが、その分相手が持っていたカードの破片とぴったり一致するという演出がありますから、効果を減じる事はないでしょう。それに、カード全部が復活する手順だと、当然ながら「本当は破らず、破ったように見せるだけ」か、「どこかで丸ごとすり替える」という手順が多いですから、これはどちらを取るかの問題でしょうね。私は、この手順は十分魅力的で、演じる価値があると思います。

8. Hofzinser all backs (Harry Riser)
現象/一枚カードを選んでもらってデックに戻した後、三枚のカードを抜き出す。三枚を確認すると、どれも選ばれたカードである。次の瞬間、三枚のカードは全部ダブルバックカードになっている。更に次の瞬間、三枚には表が戻っているが、全部選んだカードではない。それをデックに戻すと、トップカードはちゃんと選ばれたカードである。

「どこにもあってどこにもないカード」にオールバックを組み合わせたような作品ですが、ちょっと(かなり?)現象が込み入っているので、見る側が混乱を起こすような気もします。手順とハンドリングはとてもよく考えられていますので、演じるならば、何か面白い演出でもつけたいところです。

個人的に、オールバックというトリックはあまり演じる気が起きません。ダブルバックカードというのが存在するというのを、観客に示すようなトリックはやりたくないというのが、正直なところです。佐藤総さんは、「カードマジックデザインズ」の中で、「トランプが故障した」という演出をしていましたが、「故障」という演出と、ダブルバックという異常なカードを見せるという現象が上手くマッチしていて、面白い演技でした。

そのように何か上手な演出でもなしに、そのような異常なカードを示すというのは、私はちょっとなあと思ってしまいます。ブランクカードであればまだ、「印刷前のカード」又は「予備のカードで、カードをなくした時にこれに表を自分で描きます」という演出が使えますが、ダブルバックは明らかに異常ですからね。

9. Out of sight, out of mind (Dai Vernon)
現象/相手が心の中で決めただけのカードを、当ててみせる。

ダイ・ヴァーノンの有名なトリックです。心の中で決めただけのカードを当てるのですから、そのインパクトは絶大です。マルティプルアウトが少し複雑ですから、これは英語だとちょっと理解しにくいかも知れません。一度流れを覚えてしまえば、そうでもない気もしますが。カードマジック事典にも掲載されていますから(p187「カードの読心術」)、そちらも合わせて参照するのがいいでしょう。

これのバリエーションに「インターセプト」というのがあります。大きな違いは、最後のカードの示し方で、インターセプトは最後まで相手のカードの名前を聞きません。これとは意外と印象の違うトリックですから、興味がおありの方は入手してみてください。

10. Grasshopper (Paul Harris)
現象/二枚の黒いKの間に挟んだ相手のカードが、二枚の赤いKの間に移動する。

シンプルな移動トリックです。現象はシンプルなのですが、ハンドリングやカードの示し方は、いかにもポール・ハリスっぽいと言いますか(笑)。こういうトリックを、エキストラを使わずにやってしまうところも、ポール・ハリスならではという感じですが、カードのすりかえなど、とても巧妙です。手軽な即興トリックとして、覚える価値があると思います。

Bonus effect / Paramount (Aldo Colombini)
現象/カードを選ばせ、表にサインをしてもらいデックに戻す。裏色が違う3枚のブランクカードを出し、これで選ばれたカードのコピーを作ると言い、裏の色が変わり、表には選ばれたカードが現れる。更にそのカードに観客のサインまで現れる。

今回のおまけトリック。使用するギャフカードは、例によって付属しています。非常に強い効果を持つ、ビジュアルなトリックです。最初のフォースは、クライストのフォースを使っていますが、フォースが少し重いような気がするので、もっと単純なフォースでもいいような気もします。

また、シークレットアディションを行う箇所では、選ばれたカードを示すという動作に紛れさせているため、怪しさが軽減されているのが上手いところです。シークレットアディションって、大抵何の理由もなく、パケットをデックの上で揃えたりしますからね。現象も、裏、表、そしてサインと、段階を追ってカードを変化させるのが面白く、やってみたくなるトリックです。


以上11作品。難しすぎず簡単すぎず、難易度も適度です。少し準備が必要なトリックもありますが、その準備に見合う効果があるトリックばかりだと思います。優れたトリックを、アマーの素晴らしい演技で是非覚えてみてください。 

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Oil and queens (Roy Walton)

最近、時々カードマジック事典や入門事典を読み直す事があるんですが、特に事典は、数合わせとしか思えないトリックが入っている一方で、さらっと読んでいたら見落としてしまうような優れたトリックが入っていたり、この二冊は読む度に新しい発見がありますね。

個人的には、アマチュアならば、もう新しいDVDなんて買わなくてもいいんじゃないかな、と思っているほどです。そうは言っても、時々買いたくはなるんですが(笑)、アマーのEasy to masterシリーズ(カードもマネーも)をきちんと身に付けられれば(手順を覚えれば、ではないですよ)、他はなくてもいいんじゃないか、とすら思っています。あとは事典と入門事典があれば、十分ですよ。

なんたって、「新しいトリックを」と意気込んでみたって、一般の人の99%は、目の前でマジックなんて見た事がないのです。ですから、クラシックを自分なりに練りこんできちんと演じられれば、それで十分です。この「クラシックを自分なりにきちんと練りこむ」というのが非常に難しく、クラシックなんかより、新しくてビジュアルなトリックの方がいいとばかりに、いつも新ネタを仕入れたくなるのが、マジックファンの悲しい性なんですけどね。

ちなみにさっき、私の妻に珍しくマジックを見せました。フランシス・カーライルの「アップサイドダウンデック」です。発表は確か1950年。70年近く前のクラシックトリックを、マジックに厳しい妻が「これは不思議、面白い!」と言ってくれました。妻は、カラーチェンジなどは全然不思議がってくれません。「上手いね」とは言ってくれますが。そんなものです(笑)。

さて今回のトリック紹介は、傑作と評価する人と、駄作と評価する人に二分される、ウォルトンの「オイルアンドクイーンズ」です。

■Oil and queens (Roy Walton)
現象/赤黒交互に混ざったパケットを二つに分ける。片方のパケットは全部黒いカードになる。もう一方のカードは全部赤になるかと思いきや、四枚のクイーンになっている。

一応、オイルアンドウォーターの派生トリックという事になっている、この作品。カードマジック事典には「水と油(4)」として掲載されています。私は、この作品を「水と油」とするのはどうなのかという気がします。私は「カードマジック事典」は名著だとは思っていますが、この本の分類の仕方はかなり適当だと思います。

何故なら、「水と油が分離する」という現象ではないではありませんか。一度でも赤と黒が綺麗に分かれているのを見せ、「もう一度やりましょう」とやったら、もう一方がクイーンになったというのならいいのですが、交互に混ざったカードの一方が黒くなり、もう一方がクイーンになっている、というのでは、水と油の分離現象を表現していないどころか、現象として支離滅裂です。

意外な現象と言えば意外ですが、マジックには「筋立て」が大事です。意外でさえあればいいのなら、例えばコインズスルーザテーブルで、三枚目までコインがテーブルを通り抜け、四枚目のコインがテーブルの上で消えたと思ったら、テーブルの下から四枚のAが現れた、なんてのでもいいという事になります。

そのせいか、加藤英夫さんは「私はこのマジックは傑作でもなんでもないと思います」とまで書いています。まあ、私はそこまでは言いませんし、実はこの作品は割と気に入って演じるレパートリーではあるんですが。

この作品の支離滅裂さを解消させるためか、ゆうきともさんの演じ方は、非常に卓抜していました。黒と赤を、水と油ではなく(水と油としてしまうから意味不明なトリックになるのです)、男と女に見立てるのです。

しかも、ゆうきさんはウォルトンの原案ではなく、恐らくはベンディックスの改案を演じておられると思いますが、手元のパケットが全部黒になったのをエルムズレイカウントで示す前に、一度そのまま広げて(一番下はダブルで)見せています。こうすると、「黒黒赤赤」に見えるので、「この通りもう分かれかかっています」と見せられるのです。

上にも「一度でも黒と赤が分離するのを見せるのならまだしも、いきなり変化するので脈絡がない」と書きました。その通りの事が実現できればいいのですが、このトリックのパケット構成ではそれは困難です(ギャフカードでも使えば別ですが)。それを、二枚二枚が分かれるところを見せるところで、脈絡のなさをかなり軽減しているゆうきさんの見せ方は、実に見事です。

更に、ラストでは「こちらが全部男性になったということは、こちらは」と聞き、観客が「女性?」と答えると、「その通りこちらは女性です」と、四枚のクイーンを見せています。「水と油が分かれた」という現象にはなりませんが、赤とクイーンを「女性」に見立てる事で、一段しかないこのトリックで「男性と女性が分かれた」というのを、見事に表現しています。ゆうきタッチ、恐るべしです。私もゆうきさんの見せ方を借用しています。

……が、この演出だと「男女のペアが結局全部別れてしまいました」という見せ方にせざるを得ず、あまり気持ちがいい終わり方ではないですよね(笑)。なかなか難しいものです。

なので私は、その後にニック・トロストの「コートシップ」(ロイヤルマリッジ系の、キングとクイーンが全部ペアになるトリックです)を繋げたりして、気持ちよく終わるようにしています。

このトリックは、現象としては物凄くインパクトがありますが、非常に脈絡のない事が起こりますから、その分演出や前後のトリックには気を配りたいなと思っています。何せ演出面では「水と油が分かれた」が使えませんからね。

私は、オイルアンドクイーンズは傑作とまでは言えないまでも、優れたトリックだと思っていますし、気に入っています。万人が認める傑作トリックではなく、実はそういうトリックこそいつまでも演じるお気に入りレパートリーになったりするものです。そういうトリックは、じっくり練りこんで、大事に大事に自分の中で育てたいものです。 

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Piano trick (anonymous)

マジックにおけるトリックは、大きく四つに分けられるでしょう。

一つは、仕掛けのトリック。チェンジングバックとか、アピアリングケーン。クロースアップなら、インビジブルデックやスコッチアンドソーダなどが代表選手です。

二つ目は、技法のトリック。これは説明の要を待たないでしょう。技法単体でなく、その他のトリックと組み合わされる事も多く、リンキングリングなどがそうです。

三つ目は、原理のトリック。数理的原理を用いたものが代表的ですが、技法のトリックの影にも、原理が隠れている事はよくあります。ダブルリフトでカードが変化するのは、「シェルの原理」によるものです。

四つ目は、心理的なトリック。ミスディレクションも、ここに分類されるでしょうし、この心理的トリックもその他のトリックと組み合わされる事が多いはずです。分かりやすい例だと、カードで言うフォールスディスプレイ系列の技法や、コインではラムゼイサトルティなど。

今回ご紹介の「ピアノトリック」は、ほとんど心理的トリックのみで構成された傑作です。

■Piano trick (anonymous)
現象/観客にピアノを弾く時のような指の恰好をさせ、その指の間に二枚ずつのカードを挟むが、一か所だけ一枚のカードを挟む。それをテーブルに二つのパイルに分け、一枚だけのカードを一方に乗せるが、それが反対側のパイルに移動する。

このようなトリックを知った時は、大体二つの反応に分かれると思います。「なんて馬鹿馬鹿しい。こんなの絶対ばれる。演じる気にならない」というものか、「これは上手いトリックだ!」と感心するかです(このトリックをつまらないとする人とは、私はあまりマジックの話はできそうにないのですが)。

そして、「何と言う天才的な策略!」 これが、このトリックを初めて知った時(カードマジック事典か、奇術入門シリーズトランプマジックのどちらかだったと思います)の私の感想です。

このトリックは、観客に与えられた判断材料そのものが、正しい方向への思考をさせないような構成になっているのです。それがこのトリックの、非凡であるところです。

ミステリーファンには有名な一冊に、ウィリアム・アイリッシュの「幻の女」という、不朽の名作があります。この作品、ただの犯人当てと思って読めば、簡単に犯人を見抜けます。しかし、この物語の凄いところは、いつの間にか読み手の意識が、自然に犯人当てから逸れるような作りになっているところにあります。だからこそ、結末に読み手は一様に仰天するのです。通り一遍のミステリーとして作られたなら(エラリイ・クイーンのような作りであったならば)、ラストの驚愕はありません。

ピアノトリックも同様に、正しい情報だけを提示しているのに、いつの間にか見ている側の意識が「ずれる」作りです。このトリックが素晴らしい点は、演者は何ら怪しい事をしない上に、何ら「嘘をつかない」点にあります。あえて演者が観客の意識を間違った方向へ誘導するのではなく、演者は本当の事しか言っていないのに、観客の意識が(ほぼ自動的に)間違った方向へ行ってしまうのです。人間の認知機能の隙をつく、これぞ心理トリックの粋であると言っても過言ではないと思います。

心理的な隙というのは、「あえて間違った方向へ誘導する」のではなく、「自然に正しい方向からずれるような構成にする」。ピアノトリックは、そのような作りのトリックであり、このトリックの思想は、私にとても大きな影響を与えました。

例えば、カードのパームを、「気付かれないように手の中にカードを隠す技法」であると思っていた時は、私はとても人前で実行する勇気がありませんでした。しかし、パームとは「カードを隠している手に相手の注目を集めない技法」であると方向転換ができた時、パームは全く怖くなくなったのです。

ミスディレクションも同様で、わざと相手の注意を逸らす事ではなく、相手の注意が自然に何かに集まった時を見逃さずに仕事をする事。そのように、技法においても心理的な側面に目を見開かせてくれた、私にとってピアノトリックというのはそのようなトリックです。

このトリックの演じ方は、氣賀康夫さんの「奇術入門シリーズトランプマジック」の解説が、必要にして欠くところのない名文ですから、是非一読をお勧めします。

上に書いたような理由により、私はこのトリックに技法を使い、例えばカードの表を確認して、「このスペードのAを移動させます」というような演じ方は好みません。それなら、ポール・ハリスの「ラスベガスリーパー」など、もっと視覚的に説得力のあるトリックはいくらでもあります。このトリックの肝は、そこではありません。

また、「もし私が何か怪しい事をやったと思ったら、その時点ですぐ演技を止めてください」というように演じる人もあります。そのような演じ方も、ありかも知れません。が、私はそのような演じ方もしたくありません。それは「相手の意識を、力業で間違った方向へ誘導する」事であり、このトリックの良さを生かしていないように思うのです。

「よく考えたらばれる」のはその通りかも知れません。しかし逆に、「よく考えたらばれる」こういうトリックにこそ、マジックの心理的狡猾さの醍醐味が詰まっていると、私は思います。

そして(私自身は、これを演じて見抜かれた事は一度もないですが)、もしばれた時にはどうするか。それは私はいつもこう言うと決めている言葉があります。

「その通り。よく分かりましたね。これはとても面白いマジックですから、分かったのなら是非お友達に見せてあげてください」。ばれたらばれたでいいのです。そういう見方をするなら、それはそれでマジックの楽しみ方の一つです。このトリック(に限らないですが)は、そのような見方をしても、演者も観る側も、一定の楽しみ方ができるところにある点だと、私は思っています。 

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Ultimate impromptu magic vol.1 (Dan Harlan)

寒くなってきましたね。今の部屋の気温は13℃ですが、暖房はつけていません。妻曰く、「北海道で部屋が13℃だと物凄く寒いけど、こっちは湿度の関係か、13℃でも寒く感じない」んだそうです。

寒いとカードやコインを扱うのも難儀ですね。そういう時は、こういうネタはいかがでしょうか。今回は、ダン・ハーランの即興マジックDVDをご紹介です。結構バカバカしいトリックも入っているんですが、マニアックに不思議すぎるネタよりも、普通の人には案外こういうものの方が喜ばれたりするものです。

それでは行ってみましょう。

Ultimate impromptu magic vol.1 (Dan Harlan)

1. The long arm / knucle buster / Badfinger / Little Thumbthing / Thumbwhere / Thumbalong / Two left hands
現象/指や腕を使ったマジックあれこれ。腕が伸びたり、指がぼきぼき音を立てたり、親指が取れたり移動したりする。

誰でも「指が取れた~!」なんてやった事があると思いますが、その類のネタ七連発です。あほらしいと言えばあほらしいのですが、ダン・ハーランの演技スタイルもあって、結構面白いです。掴みにはいいんじゃないでしょうか。ハーランも「ウォームアップ」と言っていますしね。

こういう、一見バカバカしいトリックも、ハーランはきちんと細かいコツまで説明してくれています。誰でも知っている子供だまし的なネタほど、細かいコツをきちんと配慮すると、意外と印象が違うものです。

2. Traveling match
現象/一本だけ取って燃やした紙マッチが元の場所に戻る。更に、五本の紙マッチを取り、残ったものは全部燃やし、五本は相手に握ってもらうが、それがいつの間にか四本になり、一本は元の場所に戻っている。

紙マッチ自体今ではあまり見ませんが、これは結構不思議です。準備も必要なので、あまりimpromptu(即興)ではないような気もしますが、紙マッチが使える状況であれば、いいトリックだと思います。手順やハンドリングも、細かいところまでよく考えられています。

二段構成のトリックですが、二段目は「ファイブコイントリック」と同じ原理を使っています。が、マッチならではの「燃やす」という現象が入っているため、インパクトは大きくなっています。実は二段目の方が準備がいらず、効果も大きいですので、二段目だけやるのもいいでしょうね。二段目の簡略版が、ゆうきともさんの「アッというまにマジシャンになれる本」に、「ホーミングマッチ」として掲載されています。

3. Then there were nine
現象/演者に見えないように、何本かの紙マッチを取って捨ててもらい、残りを数えてもらう。その残りの本数の一の位と十の位を足した本数の紙マッチを捨てさせる。捨てた紙マッチも、残った紙マッチも見えないようにするが、演者は残った紙マッチの本数を言い当てる。

カードで言うところの、「10 to 19フォース」の原理を用いていますが、紙マッチを使う事で印象が変わっています。紙マッチでなくてもできますので、意外と使いどころがあるトリックかも知れません。

4. Make ten
現象/九本のマッチを十にしてみてと言い、マッチを並べさせるパズルをする。次は五本、二本と減らし、最後は一本のマッチを十にしてみせると言い、テーブルにマッチをこすりつけると、いつの間にかマッチは十ドル紙幣に変化している。

前半は単なるマッチ棒パズルです。後半の変化のパートもシンプルですが、日本語だとちょっと困りますね。千円札に変化させて、「十にするつもりが、百倍になってしまいました」というのはどうでしょうか。

5. A perfect match
現象/二つに破った紙マッチが元に戻る。

ハーランは、観客の女性に「彼氏はいますか?」なんて話をしながら演じています。これは演者のキャラクター次第でしょう。原理はシンプルですが、スライディーニ式のハンドリングが見ものです。よく考えられていて、示す時の説得力もあります。紙マッチが使えるならば、ぜひ覚えておきたいトリックの一つですね。

6. Penetrating matches
現象/両手の親指と人差し指で挟んだ二本のマッチが、貫通する。

有名な即興トリックです。覚えておくと重宝するでしょう。このようなシンプルなトリックこそ、適当ではなく、流れるように美しく演じたいものです。

7. Magnetic matches
現象/マッチ棒の頭の部分を腕でこすり、掌に乗せたもう一本のマッチに近づけると、掌の上のマッチが跳ね飛ばされる。

これも単純なトリックですが、初見では見事に引っ掛かってしまいました。解説を見て、あまりに当たり前の方法だったので、現象よりも驚いてしまいました。覚えておきたい手法です。

8. Invisible hangman
現象/燃やしたマッチにおまじないをかけると、頭の部分が落ちてしまう。

Magnetic matches同様のハンドリングによる、念動力のデモンストレーション。これも、明かされてみれば当たり前の事が起きているだけですが、マッチの燃やし方等の細かいアドバイスは参考になります。最近はマッチを使う事も多くないですから、使いどころは難しいかも知れませんが。

9. The same only different
現象/演者と観客が、手の中に何本かのマッチ棒を握る。演者は、相手の本数より二本多い本数を置き、更に残りを相手のマッチに足すと23になると言う。その通りになる。

現象の説明が何とも難しいですが、数理的原理を使ったトリックで、ダローのDVDにも同様の原理に基づくトリックがありました。これも別にマッチである必要はありませんので、コインでも何でも可能です。

10. Crayon-eating monster
現象/画用紙にクレヨンでお化けの絵を描く。お化けに口を描いた直後、クレヨンが消えてしまっている。クレヨンを食べるお化けという訳である。

子供さんに見せるのにいいですね。だからと言って子供騙しのトリックではなく、手順もしっかり考えられており、お化けに口を描いた直後にクレヨンが消えているというのは、インパクトがあります。

また、このトリックの手法を使った派生トリックが二つ解説されています(Color changing crayon、Crayon nail writhing)。クレヨンの色が変わるトリックと、クレヨンを使ったネイルライタートリックです。覚えておくといいでしょう。

11. Color sense
現象/後ろ手に持ったクレヨンを、色を宣言してその通りに一本ずつ取り出してみせる。

現象はシンプルですが、非常に巧妙な手順です。解説を見て感心しました。上手く演じれば一級のメンタルトリックにもなりえます。サロンでも演じられる、優秀なトリックだと思います。このやり方だけでも、このDVDの価値があると言っても過言ではありません。

12. Eleanor wrigley
現象/真っ二つにしたはずのチューインガムが元通りになる。

ダイレクトな復活現象です。ちょっとした準備は必要ですが、説得力を持たせる一工夫も入っており、難易度も高くなく、実用性の高い手順だと思います。Wrigleyというのは、アメリカのチューインガムの銘柄のようです。

13. Gum together
現象/噛んでいたガムが元通りになり、更に包み紙まで元に戻る。

これも準備は必要ですが、なかなかインパクトのある現象です。単なる復活だけでなく、包み紙まで元に戻るというのは、視覚的効果が強いと思います。準備さえ適切にしていれば、難しくもありません。ただ、噛んでいたガムを取り出すなんていうのは、あまりやりたくないですね。演じる状況は選ぶでしょう。

14. Piff paff poof
現象/リンクさせた安全ピンが、一瞬で外れる。

安全ピンが繋がったり外れたりというと、ダン・ギャレットの「Pin-demonium」が有名ですが、その簡略版という感じ。仕掛け自体は同じようです(ただ、ハーランの説明が分かりにくいので、「ようです」としか言えません)。繋がるところはやらず、外れるだけですので、気軽に演じられるでしょう。

15. Ripping good
現象/ハンカチに通した安全ピンが移動する。

有名な古典トリックですが、大変強力です。古典ですが、意外とちゃんと解説されている本やDVDって見ませんので、この解説は貴重です。ただ、ハーランの解説はちょっとあっさりし過ぎて、一度見ただけではよく分からないかも知れませんが、これは即興でできるトリックとして、是非覚えておきたい一品です。

16. Under pressure
現象/二本の安全ピンを相手に押さえさせる。おまじないと共に手を離させると、安全ピンが勢いよく飛び跳ねる。

これは簡単でお手軽です。覚えておくと重宝するでしょう。別法として、繋いだ安全ピンを、相手の手の上に落とすと外れるというのも解説してくれています。基本的なやり方はほぼ同じですから、どちらも覚えておきたいところです。


以上、たっぷりと解説してくれています。演技も面白いため、鑑賞用としてもいいでしょう。タイトルほど即興でできるトリックは多くないような気もしますが、即興トリックというよりは「日用品トリック」として、面白いものが多く収録されています。安全ピンのトリックは、もうちょっと詳しく説明してほしかったですが。

カードやコインだけでなく、こういう日用品のトリックも、覚えておくと便利ですから、一つでも二つでもレパートリーに入れておくといいと思いますよ。 

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