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もし「新版・奇術入門シリーズカードマジック」を作るとしたら

先日、「奇術入門シリーズ カードマジック」の記事を書き、その中で「新版があればいいのに」と書きました。今でも、カードマジックを初歩から、しかも系統的に学ぶには、この本以外にないと思っています。

なので、今回はネタとして、「『新版・奇術入門シリーズ カードマジック』を作るとしたら」というテーマで、私が中身を考えてみる事にしました。こういうテーマは、マジックファンなら一度は考えるのではないでしょうか?

もちろん、高木重朗さんの著書を改訂するのですから、変なものにする訳にはいきません。いくつか条件をつける事にします。

1. 収録作品は、時代を生き抜いてきたクラシック。
2. そして、初心者から無理なく演じられ、いつまでもレパートリーにできるもの。
3. 技法は必要十分なもののみ。
4. 代表的な原理についても一通り収める。
5. あまり原著の内容とかけ離れすぎない。

この条件で考えてみました。

やさしいカードマジック


1. ジェミニツインズ(カール・ファルヴス)/ディールドロップの原理
2. 絵札のパーティ(ニック・トロスト)
3. ポーカープレイヤーのピクニック
 原著の「4枚のA」(1)です。
4. 一致するカード
 事典の「私の真似をしてごらん(4)」。ひと組で簡単にできるDo as I doです。
5. 13の不思議
6. クエスチョンマーク/クロックフォース
7. 嘘発見器(ロベルト・ジョビー)/クロスカットフォース
 「カードカレッジライト」に収録。
8. シャッフリングレッスン(チャド・ロング)/ダブルディールの原理
9. 客が当てるカード(アル・リーチ)/ダブルディールの原理
 「スペクテイターダズアトリック」「アンタッチト」。
10. 脈拍の変化で当てる/キーカード、グリンプス
11. イモーショナルリアクション(ダイ・ヴァーノン)/キーカード、グリンプス
12. ガイガーカウンターカード(ジョン・コーネリアス)/キーカード、グリンプス
 事典収録。キーカードの演出例として。
13. 探偵カード(ニック・トロスト)/リモートキーカード
14. サンドウィッチスプレッド(ピーター・ワーロック)
15. ワイキキカードロケーション(ビル・ムラタ)
16. FBIカード(マックス・カーツ)
17. 3枚のカード(ボブ・ハマー)
18. 3つの一致(ジョン・スカーニ)
 「スカーニオンカードトリックス」「トランプの不思議」に入っている作品。
19. アウトオブディスワールド(ポール・カリー/U.F.グラント)
20. アナザークイックコインシデンス(アラン・アッカーマン)/プロフェシーフォース、リフルフォース
21. スロップリバース/スロップシャッフル、ミスコール
 ゆうきともさんの「あっという間にマジシャンになれる本」に収録。
22. エイトカードブレインウェーブ(ニック・トロスト)/オルラムサトルティ
23. イットカッツディープ(ライアン・シュルツ)/カットディーパーフォース、ワンアヘッドの原理
 「Super strong super simple」に収録。
24. アップサイドダウンデック(フランシス・カーライル)
25. クロス25(アレックス・エルムズレイ)/フリーカットの原理、列交叉の原理
 「やさしいカードマジック」編の最後を飾るにふさわしい、技術いらずの超不思議マジック。

本格的なカードマジック


技法1 ブレイク
1. 色の一致(ロイ・ウォルトン)
2. 油と水(1)(スチュアート・スミス)
3. 油と水(2)
4. キングスロワイヤル(ニック・トロスト)

技法2 シークレットアディション/ブラウエアドオン
5. エレベーターカード
6. シンプレックスエーセズ(エドワード・マーロー)/マジシャンズチョイス
7. カードマンズパズル(ニック・トロスト)

技法3 ダブルリフト
8. 突然の驚き(ジェリー・アンドラス)/ラッピング
9. ストップカード(ヘンリー・クライスト)/クライストフォース
10. レッドホットママ(アル・リーチ他)/ヒンズーシャッフルフォース
11. ジェイコブ・デイリーのラストトリック(Dr.ジェイコブ・デイリー)

技法4 ビドルムーブ
12. コートシップ(ニック・トロスト)
13. ハニーカッター(アル・ハニーカット)

技法4 グライド
14. 消えて現れるA(スタンレイ・コリンズ)
 「コリンズエーセズ」「アルファエーストリック」と呼ばれるトリック。

技法5 コントロール
15. 変化するカード(ダイ・ヴァーノン)
16. ビドルスルー(エルマー・ビドル)
 「ビドルトリック」と呼ばれる手順。

技法6 フォールスシャッフル・フォールスカット

技法7 エルムズレイカウント
17. ジャズエーセズ(ピーター・ケイン)
18. ツイスティングジエーセズ(ダイ・ヴァーノン)

技法8 バックルカウント/プッシュオフカウント
19. ワンアットアタイムエーセズ(エドワード・マーロー)

技法9 ダブルカット
20. マジシャン対ギャンブラー(ハリー・ロレイン)
21. カッティングジエーセズ(ダイ・ヴァーノン)/片手スリップカット

技法10 パーム
22. ラスベガスリーパー(ポール・ハリス)
23. ホーミングカード(フランシス・カーライル)

24. リセット(ポール・ハリス)/アスカニオスプレッド
25. トライアンフ(ダイ・ヴァーノン)/トライアンフシャッフル


元に比べると少々ボリュームが大きくなってしまいましたね(汗)。トライアンフは絶対に最後にしたかったので、こういう構成になりました。本当は、前半にギルブレスの原理やCATO、ダウンアンダーなどについても入れたかったのですが、きりが無いですからね。

技法は、これくらいが適当だと思います。この他それなりに使う技法としては、スプレッドカル、ハーマンカウント、セカンドディールくらいでしょうが、ハーマンカウントなんて、知名度の割には正直滅多に使いませんしね。変にマニアックな技法に手を出さず、上の10種類くらいの基本技法を、しっかり身に着ける方が絶対にいいと思いますから。

こういうのを勝手に考えてみるのも、結構面白いものです。皆さんも、話の種に考えてみてはいかがでしょうか。 

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奇術入門シリーズ カードマジック - 2

3ヶ月くらい前に、「奇術入門シリーズカードマジック」の記事を書きました。続きを書かずに放置しているのも何ですので、今回は後半です。後半には、技法を使った各種トリックが収録されています。

この本で解説されている技法は、ブレイク、DL、グライド、コントロール(オーバーハンドシャッフルコントロール)、パーム、ダブルカット、フォールスカウント(バックルカウント及びプッシュオフカウント)です。技法の取捨選択も適切で、収められているトリックも名作揃い。さすがは高木重朗さんの選択眼です。

それでは始めましょう。

本格的なカードマジック


1. 色の一致(ロイ・ウォルトン)
現象/演者と客は、10枚くらいのカードをそれぞれよく混ぜ、テーブルにお互い2枚ずつ置く。表を確認すると、4枚とも黒いカードである。お互いの手元のカードを開くと、全部赤いカードである。

初っ端から、私が大好きなトリックです。こういう、確率的な不思議、知的な不思議さを味わう作品が大好きなのです。「Out of this world」よりも私はこちらが好きです。たった4枚選ぶだけですから、相手にとっても負担は少ないですしね。一見地味な現象に映るのですが、適切に演じれば非常に効果的です。

2. 油と水(1)(スチュアート・スミス)
現象/演者と客は、6枚ずつのカードを持ち、裏向きで赤黒交互の列を2つ作る。端のカードを開き、2枚を入れ替えると、残りのカードも全部同じ色に揃う。

原題は確か「トランスフォーメーション」だったと思います。「表にしたカードを入れ替えると、残りも全部揃う」という辺りは、オイルアンドウォーターというより、むしろフォローザリーダー風のトリックですが、これも簡単で効果的。私のお気に入りでもあります。私は、ちょっとハンドリングを自分流に変えています。

3. 油と水(2)
現象/赤と黒のカード5枚ずつを交互に混ぜるが、分離する。

ブレイクだけでできる、最も基本的なオイルアンドウォーターです。Youtubeで、氣賀康夫さんの一工夫がされた手順が紹介されており、非常に見事な改案ですので、是非そちらもご覧ください(氣賀さんの名前で検索すれば、比較的簡単に見つかるはず)。オイルアンドウォーターは色々な手順が星の数ほど発表されていますが、一般の方に演じるには、案外これくらいシンプルな手順の方がいいのかもしれないと、最近は思っています。

4. キングスロワイヤル(ニック・トロスト)
現象/相手に赤裏デックから4枚のカードを選ばせ、青裏デックに入れる。演者は青裏デックから普通の4枚のカードを赤裏デックに入れる。青裏デックの4枚のカードを確認すると4枚のKであり、赤裏デックの4枚を確認するとこれも4枚のKに変化している。

豪華な二重現象。Do as I doに変化現象を付け加えていますが、無理なくそれが融合しています。デックを2つ使い、しかも前準備が必要ですから、そう気軽に演じられるものではありませんが、適切に演じればサロンでも十分に通じるのではないでしょうか。

準備は必要なのですが、手順の中で上手く証拠を隠滅しているのが巧妙です。ですからラストはクリーン。ニック・トロストらしい手順構成の妙が光る傑作です。

5. 突然の驚き(ジェリー・アンドラス)
現象/カードを1枚掌の上に乗せて叩くと消え、デックの中から表向きに現れる。

シンプルな手順ですがよく考えられており、現象もはっきりしている良いトリック。ただ、ラッピングが必要なため、演じる場所は制限されそう。カードを消すところは、ラブアダブダブバニッシュを使ったり、あるいは単にデックのトップにカードを乗せ、リフルしたらトップから消えた、という表現でもいいでしょう。即興奇術としてよくできていると思います。

6. 逆さになるカード(フランク・ガルシア)
現象/相手に1枚カードを選ばせデックに戻す。トップから2枚目のカードを見せるが、それは選ばれたカードではない。そのカードをデックの中ほどに入れるが、またトップに上がってくる。デックをリボンスプレッドすると、中ほどに選ばれたカードが表向きに現れる。

カード当てとアンビシャスカードを合わせたようなトリック。ちょっと2つの現象に脈絡がないような気がしますし、1枚カードを覚えさせた後、トップカードを他の客に覚えさせるというのは、少々負担も大きい気がします。ただ、アンビシャスカードの手順の中で、相手のカードをひっくり返してしまうのは上手いやり方で、応用が効くと思います。

7. ストップカード
現象/あらかじめテーブルの上に1枚のカードを出しておく。デックのトップから1枚ずつカードを表向きに置いていき、相手に好きなところでストップをかけさせる。ストップがかかったところのカードを確認すると、テーブルの上のカードのメイトカードである。

ヘンリー・クライストのフォースを使ったストップカード。これも私のお気に入りです。私はメイトカードではなく、相手にカードを選ばせて2枚目にコントロールし、相手自身が自分のカードを当ててしまった、というやり方をしています。メイトカード絡みの手順を組むなら、メイトを現すのもありでしょうね。

8. まざるカード(エルマー・ビドル)
現象/4枚ずつの赤と黒のカードを、赤4枚黒4枚の順に並べておくが、いつの間にか交互に混ざってしまっている。

「アンチオイルアンドウォーター」です。単体で見せるのにはちょっと弱い現象ですが(大抵この現象って、オイルアンドウォーターの中で見せる事が多いですし)、ビドルムーブという技法の練習用には最適です。

なおこのビドルムーブという技法。私が一番苦手なカード技法の中でかもしれません(パスのような、そもそも使わない技法は除く)。パームよりも苦手です。なにせ乾燥肌なので、左手親指でカードが上手く取れない事が多いのです(汗)。先日、マジックバー「とまり木」のマスター、勇太郎さんから乾燥肌対策を教えていただいたので、実践してみるつもりです。

9. エースの入れかわり(ジェイコブ・デイリー)
現象/4枚のAのうち、2枚の黒いAをテーブルに置き、どちらがスペードのAか尋ねるが、いつの間にかテーブルの上のAはダイヤとハートになっており、手元のAがスペードとクラブになっている。

「ラストトリック」の原案です。今では、ダブルリフトを使った簡単な方法で演じる人がほとんどでしょうが、原案も捨てがたい味があります。なお「あとがき」で、「2枚のうちどちらがスペードですか」というのが重要だと高木さんが書いています。私もそのように演じていますし、それこそがこのトリックの一番大事な事だと思います。

前田知洋さんの影響か、「愛情とお金」という演出もありますが、私個人としてはあまり好きな演出ではありません。何にせよ、原案を知るというのは大事な事ですから、一度はこのトリックの原案を試してみて損はないでしょう。

10. 変化する3枚のカード(ロン・シャルフ)
現象/3枚のカードが1枚ずつ裏向きになっていき、さらに1枚ずつ表向きに戻ったと思ったら、裏の色が変化している。

ファンカウントという技法が紹介されています。同じ手順を繰り返しているだけで自動的に現象が起こり、しかもラストには意外な落ちまでつきます。準備が少々面倒ですが、使うのは6枚だけですから、パケットケースに入れておけば気軽に演じられるでしょう。グライドは軽視されがちな技法ですが、こういうトリックを見ると、グライドも捨てたものではないなあと思わされます。

11. 風船カード
現象/相手にカードを選ばせ、デックに戻す。風船を膨らませてから割ると、中から選んだカードが出てくる。

どちらかというとサロン向きの、見栄えがするカード当てです。準備も大変ですが、ちょっと改まった場でカードマジックを披露する時は、変に難しい現象の作品より、こういうトリックの方が重宝する事は間違いありません。

12. 跳び出すカード(マーコニック)
現象/カードを選ばせデックに戻す。デックに輪ゴムをかけるが、その状態で相手のカードだけが1枚飛び出してくる。

輪ゴムの選び方が意外と難しい気がしますが、カードマジックにちょっとした道具を使うと、印象が変わりますから、こういうトリックも1つは覚えておきたいですね。ちょっと変わったカード当てって、実はとても使い勝手がいいトリックですし。私も一度は、カードオンシーリングみたいな見た目が派手なカード当てをやってみたいですが、機会がないんですよね(笑)。

13. 変化するカード(ダイ・ヴァーノン)
現象/1枚のカードを選ばせ、デックに戻す。3枚のカードを抜き出すが、いずれも選ばれたカードではない。が、そのうち1枚が選ばれたカードに変化する。

選ばれたカードの変化現象です。DLを使った単純な変化現象は、誰でもやった事があると思いますが、このトリックに於けるチェンジの方法は大変巧妙で説得力があり、さすがはヴァーノンと感心させられました。

ただ、高木さんは丁寧に説明してくださっているものの、文章では細かいところが伝わりにくく、初心者がこの文章だけで間違いなく演じるのは、かなり難しいような気がします。こういう解説を読んで、自分で試行錯誤しながら手順を追うのも、本で手順を覚える楽しみの1つとも言えます。ともあれ、こういうシンプルな変化トリックは、受けもいいですから覚えておきたいものです。

14. エスティメイション(ジョン・ラッカーバウマー)
現象/相手にカードを選ばせ、デックに戻す。更に相手に20枚くらいまでの枚数のカードをとってもらい、ポケットに入れさせる。相手にポケットから1枚ずつカードを出させ、同時に演者も手元のパケットから1枚ずつ置いていく。相手のカードがなくなった時、演者が出した最後のカードを表にすると、「あなたのカードはここで終わる」と書いてある。さらに演者は、相手のカードを自分のポケットから出してみせる。

パームを使う作品ですが、パームをするタイミングがよく考えられていますので、恐れる事はありません。こういうトリックをパーム用に持ってくるところに、高木さんの優しさを感じます。

トリックとしては、カード当てに枚数当てを加えているのですが、枚数当ての必然性がどうも薄いような気がして、私はこの手のトリックを演じようとはあまり思いません。カード当てに枚数当てを付け加えたトリックは他にもありますが、いずれも食指が動きません。そこに何か上手い演出でもつけられればいいのですが。

15. マジシャン対ギャンブラー(ハリー・ロレイン)
現象/演者はデックを3回カットし、同じ数のカードを4枚出してみせると宣言する。3枚目まではKのカードが出てきて上手く行くが、4枚目で4が出てきて失敗する。が、残り3枚を表にすると。全部4になっている。4枚のKは演者のポケットから出てくる。

名作です。プロット自体はそれこそ「妖術の開示」の頃まで遡るようですね。このトリックは、手順はもちろんですが物語が大事です。淡々と現象だけを説明して演じたのでは、何とも味気ないトリックになってしまいます。

高木さんは、このトリックの台詞もきちんと書いていてくれてますので、演じる時にはこの台詞を元に、きちんと自分なりの物語を作ってみたいものです。私が演じるなら、「ある日すすきので飲んでいると」でしょうか(笑)。

16. スローモーションエーストリック(ニック・トロスト)
現象/Aと普通のカード3枚のパイルを4つ作るが、Aが1枚ずつ消えて一箇所のパイルに集まる。

エースアセンブリーのうち、スローモーションフォーエーセズに属するトリック。手順は、エドワード・マーローの「ワンアットアタイムエーセズ」とほぼ同じようですが、最初のAの取り扱いだけが違います。マーローはブラウエアドオンを使っています。

実は私はバックルカウントもあまり得意ではない技法な上、スローモーションエーセズ自体がそれほど好きなプロットではないので(スローモーションエーセズにクライマックスがないと批判したのは、ヒューガードでしたっけ? ライプツィヒだったかな)、演じる事はあまりないのですが、高木さんが「ぜひ練習してください」と書いてますし、改めてこの手順を練習してみるのもいいかも知れません。

17. 指先で探す4A(ビル・サイモン)
現象/演者と観客が裏向きで出した4枚のカードが全部Aである。更にその4枚のカードが、デックの中をトップに登ったりボトムに下がったり移動する。

4Aプロダクションの中でも、演者と観客が1枚ずつ選ぶという、少々珍しいタイプ。セットが多少面倒ですが、ハンドリングは実用性が高いと思います。更に、このままだと4枚のAが出てきても、それを検められないのですが、それを利用してもう1つ現象をくっつけているのが巧妙です。

前半だけだと取り上げにくいトリックですが(普通エースプロダクションをやったら、そのAを使って次のトリックを演じたいですよね?)、後半まで含めると実用的ですし、トリックとしても面白いと思います。改めて手順を検証しても、巧妙に作られているなと思いました。

18. トライアンフ(ダイ・ヴァーノン)
現象/相手に1枚のカードを選ばせ、デックに戻す。デックを半分は表、半分は裏にし、表裏ばらばらにリフルシャッフルする。おまじないをかけると、選ばれたカードだけを除いて、デックは裏向きに揃っている。

言わずと知れた傑作。ヴァーノンの原案です。そしてきちんと原案の台詞を、分かりやすく紹介してくれています。別に、いつもいつも原案の台詞で演じないといけないとも思いませんが、少なくとも原案はどんな意図で作られた作品であるかは、知っておくべきです(「今日は変わった混ぜ方をします」なんて訳の分からない演じ方のトライアンフを見るたび、そう思います)。

もちろんトライアンフシャッフルの説明も詳しくされていますが、私はこの文章の説明だけではよく分からず、アマーのDVDで初めて理解できました。とにかく、原案に対する敬意を感じる解説です。必読。


と、入門者向けの書籍でありながら、最後まできちんと習得できれば、トライアンフにまでたどり着けます。この本をしっかり身につけられれば、もはやその人は初心者ではありません。

カードマジックの本では、この本と、同じ東京堂の氣賀康夫さんの2冊「奇術入門シリーズトランプマジック」「ステップアップカードマジック」(この2冊は、元々1冊でしたからね)があれば十分だとすら私は思っています。実際、今回記事のためにこの本を再読してみて、以前はあまり価値を感じなかったトリックが、実は大変な名作である事がわかり、改めて練習してレパートリーに入れたほどです。

クラシカルな名作は決して色褪せません。この本は、イラストを分かりやすくして是非新版を作って欲しいと思っているくらいです(その場合は、技法にエルムズレイカウントを追加し、マジックには「ツイスティングジエーセズ」「ジャズエーセズ」を加える、なんてのはどうでしょうね)。カードマジックの最初の1冊に、今でも自信を持ってお勧めできる本です。 

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Little Vernon (John Carey)

いつの間にやら、二月くらい更新が途絶えてしまい、気がつけば年が明けていました。皆様、あけましておめでとうございます。今年も、無理のない範囲で更新しますので、時々は見てやってください。

先月の中頃は、Izumiさんによる、札幌の手品愛好家の忘年会に出席してきました。会場は、札幌すすきのにあるマジックバー「とまり木」。とても雰囲気のいい場所で、マスターもとても感じのいい方。今度は客として行ってみたいと思いました。

なお、その忘年会で私が演じたのは、2つ。ジョン・キャリーの「Opening time」(の、私流にハンドリングを変えたもの)と、HIRAKIさんの「透視風」(Mデックを使った作品)。どちらも技法なし(頭は使いますが)という辺りが、いかにも私です(笑)。

「Opening time」は、タネを明かされると馬鹿馬鹿しくなるほどシンプルなトリックですが、一般の人には大変効果的なのは、何度も演じて実証済みです。また「透視風」は、「マニアでも追えない」と書かれている通り、来られた愛好家の皆様にも不思議がってもらえた様子。ともあれ、楽しい催しでした。

さて、今日はまたトリック紹介。これまではクラシックばかり紹介してきたので、現代のトリックについても書かないと、そのうち誰も読んでくれなくなりそうですので(笑)、新し目のトリックについて書いてみます。

■Little Vernon (John Carey)
現象/観客が自由に選んだ9枚のカードの中から、1枚を心に決めてもらう。演者は一切質問する事なく、そのカードを当てる。

マニアにはおなじみ、ダイ・ヴァーノンの「Out of sight, out of mind」の、超簡略バージョンです。ジョン・キャリーが割と最近出したDVD「The essential John Carey」に入っています。

最初に見た時は、「こんなのが不思議に見えるんだろうか……?」と思いました。DVDでキャリーは、一般客に対して演じている感じではないですし(観客役は、アラカザムマジックのスタッフかな?)、見ただけでやり方は明らかなほどに分かり易いトリックだったからです。

が、試しに妻に演じてみたところ、「なんで分かるの!?」と、好評でした。マジシャンの感覚だと、さほど面白いとは思えないところもあるのですが、やはり定期的に一般の人相手に見せないと、感覚が分からなくなるなと思わされた次第です。

この作品も、そしてヴァーノンの原案も、9枚の中から選ばせるというのは同じです。しかし原案では、それをデックに戻し、その上で思ったカードを当ててみせます。対してキャリーのこのトリックでは、9枚の中から選ばせ、9枚の中から当ててみせます。

手品愛好家的視点から見ると、9枚の中から当てるより、52枚の中から当てる方が効果的だと思いがちです。しかし「Out of」の最も効果的なところは、52枚の中から当てるところでしょうか? 違うはずです。「Out of」が最もパワフルなのは、「心に思っただけのカードを、ずばり当ててみせる」点にあるのです。

そこさえきちんと表現できていれば、極論3枚の中から心に思ったカードを当てるだけでも、十分なインパクトを与えられるはずです。心に思っただけのカードを当てるのですから、3枚だろうが52枚だろうが、同様に不可能なのですから(つまり演じる時には、当てずっぽうで当たったのではなく、心を読んで当てたという演技が必要なはずです。演技スタイルにもよりますが)。

キャリーは、「Out of」において最も相手に効果を与える部分だけを抽出して、ハンドリングも限界まで優しくしてこのトリックを構成しています。このように、トリックの一番大事なところを抜き出しつつ、技法を極限まで省くという点において、ジョン・キャリーの才能は現代のマジシャンの中でも、抜きん出た才能を持っていると思います。

このトリック、原案と違って9枚しかありませんから、コントロールの方法も大変ずぼらです。が、そのずぼらな方法が立派に通用するんですよね。それでいて、相手に与える印象は原案におさおさ劣るものではありません(私の妻は「気持ち悪い」と言ってました(笑))。このトリックは、早速お気に入りのレパートリーになりました。

ところで、この手のトリックで注意すべき点があります。DVDでキャリーは2種類のフォールスシャッフルを解説しており、そのうち1つは、とある原理を利用して、相手に混ぜさせる(混ざらないけど)という巧妙なものです。私は妻に演じた時、最初に自分がフォールスシャッフルし、次に妻にDVDの方法で混ぜさせました。

そうすると妻は、「2回も混ぜるのがまどろっこしい。貴方が1回混ぜたら、選んだカードがどこに行ったか分からないのは明らかなんだから、2回もやる必要ないでしょう」と言ったのです。これは、手品愛好家視点では気付かない、一般客ならではの意見ではないでしょうか。

我々は、こういうトリックだと、念入りに混ぜれば混ぜるほどフェアに見えると考えがちです。特に、相手に混ぜさせられる場合はなおのこと。しかし考えてみてください。そのシャッフルで、マジシャンは何を表現しようとしているのでしょうか。このトリックの場合は「パケットの順番がばらばらになる事」ではなく、「選んだカードがどこに行ったか分からなくなった」事であるはずです。だとしたら、わずか9枚のカードを何度も混ぜさせる理由があるでしょうか。一度やれば十分なはずです。カードを混ぜる作業なんて、それだけとれば退屈なだけですからね。

それに、こういう行為を何度もやると、見ている側が「何度も混ぜたからフェアだ」と感じるでしょうか。下手をすれば逆に、「混ぜてもトリックには影響がないんだな」という事を、暗に知らせてしまう危険性すらあるのではないでしょうか。妻の何気ない一言から、私はそんな事を考えたのです。

もちろん、演じる相手や演目にもよるでしょうから、そこは臨機応変です。1枚のカードがどこに行ったか分からなくするのではなく、カードの並びを完全にばらばらにするのを示すのが目的ならば、何度もシャッフルするのが適当という場合もあるでしょう。しかし少なくとも、「フォールスシャッフルは、やればやるほどフェア」「相手にも混ぜさせるとよりフェアになる」という先入観は、持たない方が良さそうです。

とにかく、レギュラーカード9枚だけで強力な効果を持ち、更に超簡単なこのトリックは、私の大のお気に入りです。簡単すぎると馬鹿にせず、是非演じてみてください。予想以上の効果に驚かれる事と思います(高木重朗さん風)。

今年も、巧妙な原理を活用したマジック、思考の隙間をついた手順が大好きな私ですので、そういうトリックを主体に書いていくと思います。本年も「It's all in the cards」をよろしくお願いいたします。 

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