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Handle with Carey (John Carey)

暑い日が続きますが、皆様(皆様というほどここを見ている方おられませんが(笑))、いかがお過ごしでしょうか。

DVDレビューの5回目は、私一押しのジョン・キャリーのデビュー作です。タイトルの「Handle with Carey」は、「Handle with care」(取扱注意)に引っ掛けた洒落でしょうね。この人は、難しい技法を極力使わず、手順構成の賢さでトリックを組む名人です。また、ハンドリングも非常に自然で、いかにもな「技法感」がありません。派手さはないですが、玄人好みの上手さを見せてくれます。私はこの人の事を勝手に、「イギリスのゆうきとも」と呼んでいます(笑)。

どこだか忘れましたが、マジックのブログで「マジック始めて1か月、みたいな人はこのDVDでいいのでは」みたいなことを書いていらっしゃる方がいました。が、マジック始めて1か月というと、「とにかく強力な現象!」「難しい技法を覚えたい!」という感じのはずで、このDVDの価値は分からないと思います。

ある程度「人に見せて楽しませる」事の難しさを知った、中級以上の方は、このDVDには、きっと唸らされる事が多いはずです。それでは参りましょう。

Handle with Carey (John Carey)

1. Counting on you
現象/観客に、10から20の間の数を好きに決めてもらい、その枚数のカードをデックから数えてもらう。更に、数えた最後の枚数目のカードを覚えてもらい、取ったカードは全部デックに戻す。マジシャンはデックをシャッフルした後、デックからカードをまとめて取るが、それが相手の取った枚数と同じであり、更に枚数を確認したパケットの一番上から、相手の覚えたカードが出てくる。

文章で書くとちょっとややこしいですね。賢い解決法ですが、カードの名前と取った枚数を2つ覚えさせないといけないので、意外と状況を選ぶかも知れません。手法自体は幅広い応用が利きそうなので、色々考えてみると面白いでしょう。

2. Simple fusion
現象/相手に1枚カードを選ばせ、マジシャンがその表にサインする。もう1枚カードを選ばせ、今度は裏面に相手にサインさせる。そのカードを相手の掌中に挟ませるが、デックの中ほどに1枚だけ表向きに戻ってくる。そのカードにおまじないをかけると、裏に書いてあったはずの相手のサインが消えている。掌中のカードを開かせると、表と裏にサインがしてある。

一見「アニバーサリーワルツ」風ですが、あちらは「表にサインがしてある2枚のカードが融合して1枚になる」という現象なのに対し、こちらはサインが移動するという現象ですから、少し印象が違います。

最後は、サインが移動しただけでなく、掌中のカード自体が変化しているという、ちょっとした矛盾があるのですが、そこは気にしなくて大丈夫だと思います。こういう軽い矛盾を上手く利用しているのが、彼の優れたバランス感覚ですね。

3. Gemini detector
現象/相手に1枚のカードを選ばせデックに戻す。マジシャンは名刺を取り出し、相手に選んだカードの特徴を聞きながら何かを書く。デックから1枚ずつカードを配っていき、相手がストップをかけたところに名刺を置く。名刺を確認すると相手のカードの名前が書いてあり、名刺の隣のカードは選んだカードである。

タイトルからお分かりのように、「ジェミニツインズ」の原理を使っていますが、ライディテクター(嘘発見器)タイプの演出が卓越しています。これがなかったら、何とも淡泊なマジックになってしまうでしょう。観客とのやり取りを楽しんで演じたいですね。

4. 3 Chances
現象/観客に1枚のカードを選んでもらい、デックに戻す。マジシャンはデックを広げていき、相手に好きなところでストップをかけさせるが、2回やっても相手のカードは出ない。その2枚を表向きにしてアウトジョグしてスプレッドを閉じ、飛び出た2枚のカードを相手に押し込ませると、選んだカードが現れる。

プランジャーの原理を使った、即席ライジングカードです。相手に押し込んでもらうので、大変効果的で、これは私も愛用しています。キャリーのスプレッドカルが大変自然で、参考になると思います。I-Magicの小林洋介さんも書かれていましたが、パスを一生懸命練習するくらいなら、これくらい自然で綺麗なカルを身につけた方が、はるかに実践的だと思いますよ。

5. Balducci as I Balducci
現象/相手が選んだカードをマジシャンが、マジシャンが選んだカードを相手が、それぞれ当てる。

タイトルが技法名そのまま(人名か)という、大胆な作品です(笑)。タイトルの通り、バルドゥッチフォース(カットディーパーフォース)を使うんですが、この作品を知った加藤英夫さんが、「このフォースは不自然で使いたいと思わなかったが、この作品を見て、カードを選ばせる手段でなく、選ばれたカードを探す不思議な方法としてなら、使い道がある事に気づいた」を書かれていました。加藤さんの解説に付け加える事は、何もありません。

技術的には実に簡単ですが、絶大に受ける事は私が保証します。手順の簡単さで馬鹿にせずに、是非演じてみてください。

6. Sticking up for Larry
現象/1枚のカードをデックの中ほどに入れるが、そのカードが相手の指定した枚数目から表向きに現れる。

ラリー・ジェニングスのリバース、人呼んで「ラリバース」と呼ばれる技法を使った、トリックとしては小品とも呼べる手順ですが、観客に与えるインパクトは絶大です。アンビシャスカードとカードアットエニーナンバーの組み合わせとでも言いましょうか。私自身は、「何かマジックやってよ」と言われて、1つだけ見せる時にこのトリックを演じる事が多いですし、アンビシャスカードではラストにこの手順を持ってくる事もあります(アンビシャスカード自体滅多にやらないけど)。

ラリバースは、錯覚を利用した非常に賢い技法ですので、知らなかった方は是非覚えておいてください。こういう心理的盲点をついた技法を多用するのも、キャリーの特徴です。

7. Searching for a sandwich
現象/1枚のカードを選ばせ、デックに戻し、デックのトップとボトムにジョーカーを置くが、2枚のジョーカーが少しずつ距離を縮め、1枚のカードを挟む。もちろんそのカードが選ばれたカードである。

「サーチアンドデストロイ」「サーチャーズ」風ですが、これも錯覚を上手く利用して、かなり楽にできるようになっています。解説で、いわゆるアードネスチェンジ(フーディーニチェンジ)を、しつこいくらい何度もやってくれるので、「そこはもういいから、次を解説してくれ!」と思うかも知れません(笑)。

途中にやはり矛盾があるのですが、観客の意識に残りにくいような手順になっているあたりはさすがです。ちょっと腕に覚えのある人なら、ターンノーバーパスを使ってしまうところでしょうが、それをあのような負担が軽く、錯覚を利用した方法でやる辺り、キャリーの優れた現場感覚だと思います。ただそれをカムフラージュするため、2枚のジョーカーは同じデザインで演じるべきでしょう。レパートリーにしたいんですが、そこがネックだったりします。

8. Speccy magician
現象/デックから10枚程度のカードを抜きだし、相手に渡して、マジシャンに1枚のカードを覚えさせる。相手がおまじないをかけると、1枚のカードが消えている。デックをスプレッドすると、マジシャンが覚えたカードが表向きに現れる。

「マジシャンが覚えたカードを相手が当てる」という演出の作品は時々ありますが、なんと相手がカードアクロスを演じるという演出の作品。演出も非常に優れていますし、マジシャンがやるべき仕事は、手順の序盤で終了するので、後半は演技に集中できます。こういうのをこそ、真に実践的なマジックというのでしょうね。技術的にも実に平易です。

手元だけ映った動画を撮って自己満足する人には、この作品の価値は分からないでしょうが、人前で演じて「楽しませたい」と思う人ならば、きっとこの作品を気に入るはずです。これもお気に入りレパートリーになっています。

9. BTB
現象/観客がサインしたお札がマジシャンの手から消え、テーブルに置いてあった薬の容器の中から現れる。

お札の移動現象です。外国の人って実に気軽にお札にサインしますが(しかもマジックペンで)、日本人の感覚だと難しいですね。お札のナンバーを控えておくのも一つの手でしょう。最後のお札を取り出す時の錯覚の利用の仕方が、これまた賢い。唸ります。

問題はぴったりくる容器ですが、キシリトールガムの容器なんてどうでしょうか。薬の代わりにガムを使えば、上手く行きそうな気もするので、一度試してみたいところです。

10. WTF interchange
現象/デックをドリブルすると、4枚のAが表向きに現れる。相手に3枚のカードを選んでもらい、ポケットに3枚をしまう。1枚のAは胸ポケットに見えるように差し込んでおくが、ポケットの中からはAが現れ、手元に相手のカードが来ている。

いわゆるポケットインターチェンジ。現象説明だけ見ると難しい技法を使ってそうですが、難しい事は何もしません。パームも使わないというエクセレントな手順。確か、ゆうきともさんの「イロジカルチェンジ」で、同じ手法を使っていたと思いますが、元々はジョン・バノンの方法だったと思います。とにかく「労少なくして功多し」の見本みたいな手順です。

ただ、3枚のカードを選ばせるのが、現実的には演じる環境を選ぶかも知れませんが、立ったまま演じられる優れた手順ですから、立ったまま複数の人に演じる機会が多い人は、覚えておいて損のない手順だと思います。

11. Triple inpurseination
現象/財布を取り出し3枚のコインを使うというが、財布の中には1枚の銅貨しかない。その銅貨が、銀貨、チャイニーズコインと次々変化し、チャイニーズコインをポケットにしまってもまた手に戻ってくる。最後はチャイニーズコインも消えてしまう。テーブルに置いてあった財布を開くと、銅貨、銀貨、チャイニーズコインの3枚が中から出てくる。

トリプルスペルバウンドですが、ギミックを使ってとても楽にできるようになっている上、ラストはレギュラーしか残らないという、実践的かつ素晴らしい構成の妙。ブラボーです。最近は、やたら難しいテクニックを使うコインマジックが幅を利かせていますが、コインマジックの効果って、技法の難しさと比例しないというのが、こういう作品を見るとよく分かります。

ギミックは、コインマジックをやる人なら大抵持っているものですので(コインをあまりやらない私も、なぜか持っていた(笑))、これは是非覚えたい手順です。

12. GYS coin
現象/コインが現れたり消えたりするワンコインルーティーン。最後はジャンボコインに変化。

これも難しい技法は使わない、実用的なワンコインルーティーン。鼻の穴から落ちてくるのは、マイケル・アマーもやっていましたね。難しい技法は使わないのですが、すべての所作が自然で、何かやっているように見えないところがさすがです(これはカードについても同じです)。初心のうちは、こういうマジシャンの演技を参考にすべきという点では、冒頭に書いた「マジックを始めて1か月くらいの人におすすめ」というのは、ある意味当たっているかも知れません。


以上12作品。どれも実戦の場で磨き上げられている事が感じられるトリックばかりです。通常、1本のDVDでは1つ当たり作品があれば儲けものなのですが、このDVDはどれをとってもレパートリー候補が目白押し(私自身は、4作がいつも演じるレパートリーに入っています)。改めて今回見直しましたが、特にコインの作品は、以前見た時には気づかなかった優れた点に気づき、練習してレパートリーに入れたいなと思わされました。

なお、「Tool box」と称して、作品内で使用するいくつかの技法を解説してくれていますが、一番痺れたのは「Overhand false shuffle」です。何という大胆さ! それでいて、解説を見た後でも引っ掛かってしまう、強烈な錯覚。世に溢れるやたら難しい(それでいて角度に弱い)フォールスシャッフルを使っている方々は、これを見たら椅子から転げ落ちるかも知れません。そしてこれがきちんと身に着けられたら、他のほとんど全てのフォールスシャッフルは不要になる、かも知れません(ちと大げさ(笑))。

とにかく、トリックはもちろんですが、演出が巧みで、演技も自然体。「人前で演じて楽しませたい」という方は、是非このDVDを見てみてください。きっと参考になるはずです。  

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コメント

丁寧で詳しい解説&レビューで大変助かります。
実際に買ってみたのですが、現場で通用する文句なしの☆5つでした。
2019/ 03/ 21( 木) 10: 43: 00| URL| hJr# -[ 編集 ]
 
追記
icandyという作品もおススメですよ~
ぜひレビューして頂きたいです..
2019/ 03/ 21( 木) 18: 11: 37| URL| hJr# -[ 編集 ]
 
コメントありがとうございます。ここのところ何かと忙しく、更新が滞ってしまいすみません。

「現場で使える」これ大事ですよね。斬新なのも現象が強烈なのもいいですが、観賞用で終わったり、動画で演じるだけは意味ないですから。

iCandy、私も所有しています。これも実用的かつ面白い作品が多いですよね。せっかくのリクエストですから、取り上げてみます。

またコメントをお気軽にお寄せください。
2019/ 03/ 23( 土) 15: 45: 21| URL| # -[ 編集 ]
 

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